自己紹介ではない自己紹介

空の青さがなぜか不気味で
清々しいはずの風も不自然で
お天道様は急転直下奈落へ転落
夜空に浮かんだ星たちも 手を伸ばすほど遠のいて
遠のいて 遠のいて
生きることまで 遠のいて

都会の夜には新聞紙
雨に濡れて びしょびしょ ぐちゃぐちゃ
靴跡と異臭にまみれながら
惨めにぬっちゃり張り付いて
踏まれ 千切れて 醜く果てる
誰かに見向かれることもなく
晒されるまま 果てるまま
道路にへばりついたガムのように
忘れられることさえもなく

突きつけられた現実は あまりにも正しすぎて あまりにも残酷で
虚無を夢と隠さんと 無我夢中 貪るしかなかった
確かな存在としての夢 気がつこうともしないまま
夢は夢を貪り 夢は夢を貪り・・・・・・

靴跡と異臭から生まれた カネの奴隷の子守歌
今日も 自分で自分のために唄っている
おやすみなさい

自発的生誕 よくできました
自発的環境選択 よくできました
自発的強制参加 よくできました
自発的進路選択 よくできました
自発的就活 よくできました
自発的労働 よくできました
不調 忍耐 強行 崩壊 全て自発的に行った結果!
自発的落伍
あ~!いけないんだ!いけないんだ!

金の枷を舐め回して誇らしげに唄うお兄さん
「おしごと いただき ありがたや!」

金の枷に頬ずりして誇らしげに唄うお姉さん
「ここは天国だ!」

紙の枷を破らぬよう丸くなって唄うヒト
「競争協調目的合理!
 労働自立意味効率!
 将来経歴自己利益!
 賃金税金年金借金!
 働く!頑張る!賃金いただく!単純明快!自然法則!」

ハイ!イチ、ニ、イチ、ニ!イチ、ニ、イチ、ニ!
満員電車で爪立ち絶叫
生まれてきて よかったナー!
あっはっはー 踏んで 奪って 殺すが人道!
ならば せめて 愛したい?

夢でできた皮に 愛情をたっぷり注ぎますと
あら不思議 黒い液体となって
ぽたぽたと滴り落ちてくるのです
かわいいのは かわいい頃だけで
それでも常識が優先されます
慰み者になった気分は幸せ

愛情に似せた愛情と
幸せになってほしい なんて文字列で
全て赦され気分爽快?

禍々しい全体の中で
禍々しい全体に夢を託しながら
それでも逞しく輝く小さな生命
なんてものが都合よく存在するはずもなく
夢は夢を貪り 夢は夢を貪り
自らを模した人形を掲げて かんぷあい

苦しい悲しいきついつらい
息ができない涙が溢れる
疲れた憂鬱もう死にたい
明日が厭わしい 昨日が懐かしい
未来が忌まわしい 過去が憎らしい
傷つけたくない 傷つけるしかない
そんな毎日 反復 反復 反復 反復
これが 生きてる証 らしい

正しすぎる現実は
残酷なだけで色がなく 冷酷なだけで音もなく 押し潰すだけで何もない
それでも 砂の城のごとき この現実を
信じてわらえ 狂人共
信じていることにさえ 気がつこうともしないまま
これぞヒトの本性と謳い 今日も・・・・・・
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シゴトニンゲン1号

「これはこれは、先生、ご足労いただきありがとうございます」

「うん、それはいいのだが・・・・・・きみ、私にみせたいものがある、というのはどういうこと?ここは刑務所じゃないか」

「ええ、それも反社会的な凶悪犯を収監する、ね」

「一体何があるっていうんだい?」

「必ずやお気に召すはずですよ。さあ、入りなさい」

「シゴト・・・・・・シゴト・・・・・・」

「はあ、この囚人がなにか?」

「紹介しましょう。この囚人こそが現代科学の結晶、シゴトニンゲン1号であります」

「きみは私をバカにしているのかい?」

「まさか!じゃあそうですね、先生、服を脱いで全裸になってください」

「はあ?」

「いいからいいから」

「わっ、何をする!やめなさい!」

「シゴト!」

「ぎゃっ・・・・・・いたたたた」

「おお、これは・・・・・・!」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「ん?なにこの紙・・・・・・請求書?護衛、千円?」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「つまりこういうことですよ。反社会的な犯罪者の脳構造を外科的に変化させ、シゴトを愛する善人に生まれ変わらせる。ネオ・ロボトミー計画、その最初の被検体がこちら、シゴトニンゲン1号なのであります」

「反社会的なエネルギーさえもがシゴトへの情熱に変換される・・・・・・なんということだ!こいつを一般人にも施せるようになれば・・・・・・」

「我が国経済の復活は間違いなし!そして、ご覧のように、計画は既に実社会を舞台に試験できる段階にまで進んでいるのです」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「え、ああ、ごめん、ごめん。千円だったね、ハイ」

「どうです?」

「素晴らしいね。人々のニーズに敏感に反応する起業家の精神、そして正当な対価を要求する労働者の精神、まさに止揚!夢の技術だよ」

「ふふ、今日、今から、夢が現実になるのですよ。ようやく正式な許可が下りましてね、これから1号を釈放するのです」

「おお!ここで結果を出せば・・・・・・」

「大成長時代の幕開けです!さあ、いけ!シゴトニンゲン1号!思う存分社会に貢献してこい!」

「シゴト・・・・・・シゴト・・・・・・」

・・・・・・

「えーと、ここにはどう行けばいいのかしら?」

「シゴト」

「ひゃっ!・・・・・・なんですか?」

「シゴト」

「あの、私急いでるんで・・・」

「シゴト」

「きゃーっ!離して!」

「シゴト」

「誰か!誰か!」

「シゴト」

「いったっ!ああ、足が・・・・・・くそがっ!なにしやがる!」

「シゴト!」

「あ、おい、降ろせよ!ざけんなコラ!降ろせ!誰か!誰か助けて!」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「はあ?・・・・・・請求書?道案内、五百円?輸送、千円?」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「ふざけんじゃねーっ!こっちは何も頼んでねーよ!つーかここどこだよ!足捻ったのどうしてくれんだよ!」

「ピコン。シゴトガ、ソウシュツ、サレマシタ」

「この野郎・・・」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス」

「ちょっと、やめ・・・・・・ひったくり!誰か助けてー!ひったくり!ひったくり!」

「おいお前、やめるんだ!」

「セイトウナタイカヲ、イタダキマス!」

「訳の分からないことを・・・・・・あっ・・・・・・うわあああああ!!・・・・・・」

「つ、突き落としだー!階段から人が突き落とされたぞー!」
「あいつだ!みんなで取り押さえろ!」
「大変だ!頭から血が!救急車!早く、早く病院へ!」

「シゴト!シゴト!」

「押さえろ!止めを刺しにこっちにくる!」

「気を付けろ!殺人犯だ、凶器を隠し持ってるかもしれない!」

「セイトウナタイカ!シゴト!」

・・・・・・

「はぁ、まさか最短でここに戻ってくるとは・・・・・・」

「シゴト・・・・・・シゴト・・・・・・」

「いや、しかし、方向性は決して間違っていませんよ」

「先生・・・・・・」

「潜在的なニーズを開拓してシゴトを創り、価値を提供し、正当な対価をいただく。まさにビジネスの本質ではありませんか。なにより、罪を犯すことさえ厭わずシゴトに邁進するこの貪欲さ、ビジネス・スピリットの体現であります。シゴトニンゲン1号は、今の段階でも既にビジネス・パーソンとして必要な要素を全て兼ね備えているのですよ」

「先生、ありがとうございます」

「いや、いや、大半の労働者はこうした要素をほとんど持ち合わせていませんからね。これこそ我が国経済が低迷する主要因なのでありますから、労働者たちは1号を手本とすべきでしょう」

「しかし、残念なことに、労働者たちにはそれだけの・・・・・・」

「つまり、この計画に我が国の未来が懸かっているわけですな!」

「先生にならこの計画の意義を理解していただけると信じていましたよ。そこで、なのですが、是非先生にも計画に加わっていただきたいのです。1号を微調整していくうえでは、先生のお力がどうしても必要に・・・」

「もちろんですとも!このような社会的意義のある計画に参加できる・・・・・・感無量!研究者として光栄の至りであります」

二人「ワッハッハ」

「ピコン!コヨウガ、ソウシュツ、サレマシタ!」


門はずっと開いていた

「・・・・・・おい、お前、今何て言った?」

「だから、やっぱり門は開いているんだって!」

「ハハハ、なあ、いくら冗談でもそれはないだろう?今日はせっかくのお祝いの日だっていうのに」

「冗談で言ってるんじゃない!」

「いい加減にしろよ!今日は施設(コミュニティ)のみんなが集まってるんだぞ!」

「だからこそ言ってるんじゃないか!これはみんなが聞くべきことだよ」

「さて、さて、さて。門が開いている、などとほざいたのは、おぬしじゃな?」

「代表者様、ええ、そう・・・」

「お、お、お待ちください代表者様!本当に、本当に申し訳ございません!しかし、これまで、一度も、ただの一度も、この子がこのようなことを口にしたことはなかったのです!どうか、どうかお慈悲を!」

「母さん、どうしたんだい?これはみんなにとっても朗報じゃないか」

「ほう、おぬし、みなが何のために日々働いているか、その年齢で知らぬと?」

「え?門の外に出るため、ですよね。だから・・・」

「今日が何の日か忘れたか?」

「まさか、労働者の日でございます。ですから、こうして我々「就労可能年齢到達者」のため、祝賀会が催されているのではありませんか」

「そんなに働くのが嫌か?」

「いえ、そのようなことは・・・」

「だったらみなを愚弄して楽しんでいるのか!」

「ええ?一体どういう・・・」

「バカ!!早く謝るんだよ!ああ、なんで、なんで、こんな人間に育てた覚えはないのに!」

「母さん、なんでそんなに慌ててるんだよ!?みんな門の外に出るために働いてきたんだろ?だったら、その門が開いているというのは喜ぶべきことじゃないか」

「門は開いていません」

「いや、母さん、門は開いているんだ。ほら、こっち、みてくれよ」

「みません」

「どうして?」

「みても無駄だからです」

「なにが無駄なの?だって、どうみたって門は開いているんだよ!」

「門が開くわけがありません」

「だから開いているんだって!」

「私はあんたを嘘つきに育てた覚えはない!」

「ちょっと待ってよ、確かにみんなが開いてないって言うから、これまではボクも目の錯覚か何かだと自分を納得させてきたけど、今日改めてみたら、やっぱり開いているようにしかみえないんだ。小さい頃からずっと門は開いていた、そう確信せざるを得ないんだよ」

「ふん、随分と自信満々じゃな?」

「ええ、みれば一目瞭然ですから」

「みるまでもない。門は開いてないんじゃからな」

「はあ、一体どういう・・・」

「門の前に、みなをみてみろ!ほれ、おぬしのせいで、みな怒りに震えておる。せっかくの祝いの日、それも、おぬしらを祝うための日に、おぬしらを祝うために集まってくれた者らに対し、よくもまあそんな暴言を吐けたものじゃ」

「いや、これでもう門のために働く必要がないのですから・・・」

「いい加減にしなさい!裏切られたみんなの気持ちがわからないの!?」

「母さん、ボクの方こそさっぱり意味がわからないよ!」

「はぁ、あのな、みな今まで、いや、今生きている者だけではない、門の外をみることなく死んでいったご先祖様方も、門が開く未来を夢見て、一生懸命働き続けたのじゃ。働いても、働いても、門は開かない。しかし、それでも、明日、門が開くかもしれない、そんな希望を胸に、日々の繰り返しに耐えてきたのじゃ。それなのに、軽々と、門が開いている、などと」

「多分ですが、門はずっと開いていたのではないでしょうか?」

「あ、あ、あ、あんたあぁぁぁぁ!!」

「出ていけ!本当に門が開いているというなら、一人で出ていけ!」

「他の人たちはどうなるのです?みんな、門の外に出たいわけですから、みんなで一緒に・・・」

「本当に門が開いているのなら、一人ででも出ていくのが道理じゃから、したがって門は開いていない」

「代表者様、みんなも、一体どうしたんです?門の外にある自由を掴むために働いていたはずではなかったのですか?」

「いいか、我々が求めるのは労働の先にある真の自由であって、そういった見せかけの自由ではないのじゃ!そうだろう、みなの衆!」

「そうだ、門が開いているだなんて、とんでもない大嘘だ!」
「閉まりきった門をわざわざみてみろだって?まったく、オレたちをバカにしてやがる!」
「今までこんなに苦労して、それでも開かなかった門が、ひょっこり開いているだ?そんなうまい話があるはずないんだよ!」

「ちょっと待ってくださいよ。じゃあ門の外に出たいというのは嘘なのですか?施設長たちの悪政に対する不平不満も嘘なのですか?門は開いているんですよ!ほら、やっぱり開いている!もう、今すぐにでも、全てから解放されるのですよ!」

「自由とは、絶えず努力し、漸進的に勝ち取っていくものじゃ。それなのに、何も労することなく手に入れようとは・・・・・・なんと浅はか!」

「ですからみてくださいよ、ここから、ほら、門はどうみても開いているのです」

「最近の若い奴らは、本当に幼稚で、すぐ安易な考えに縋ろうとするから困る」

「安易も何も開いているものは開いて・・・」

「代表者様!我々とこいつを一緒にしないでください!」

「君たち!少し前に、開いているようにみえなくもないって認めた・・・」

「嘘です!我々はリアリストですから、門が開いているだなんて、そのような妄想に囚われることはございません」
「真の自由のためには大変な労を要することぐらい、百も承知であります」
「我々もこれからは施設(コミュニティ)内で働く身。覚悟を決め、解放を目指して日々邁進する所存であります。ですから、その、希望のポズィションの方を、何卒、何卒」

「うむ、うむ、当然じゃ!雇う側なら、誰しも、夢想家より地に足の着いた若者を選ぶに決まっておる!」

「お、お願いします!少し、ほんの一瞬でいい、門をみてください!」

「断る!門は開いていない、それが確固たる現実なのじゃ!」

「あんた、どうしてくれるんだい。あんたも、私たち家族も、みんな、もう、ここじゃ働けない」

「母さん!門は開いているんだから、ここで働く必要なんて・・・」

「その通り!おぬしがここで働く必要はない!狂人に与える労働など、ここには存在せんのだからな!」

「え、え、どういうことです?」

「おい!最初に出たのは何年前だった?」

「はっ!記録によれば、500年前であります!精神に異常をきたした男が、こいつと同じことを口に」

「そのときは、どうした?」

「はっ!当時の施設長殿が「降格」及び「施設(コミュニティ)追放」の処分を科し、以後それが「法」となったのであります!」

「うむ、あまりに重いが、しかしそれはつまりそれほどの罪を犯したということ。仕方あるまい」

「おかしいじゃないか!門から出られるんだから、もうあいつらの作った決まりに従う必要なんて・・・」

「あんた、あんたのせいで、私たち家族はもう終わりだよ。せっかく、先祖代々、コツコツ積み上げて、ようやく、B+にまできたっていうのに、あんたのこれで、一気にC-だよ」

「母さん、みんなも、目を覚ましてよ!もうこんな決まりに従う必要なんてないんだから・・・」

「こんな?「こんな」ってのは、一体どういうことだい!?ええ!?あんた、C-の生活がどんなものか、知ってて言ってるのかい!?」

「だから、もう・・・」

「現実から逃げるんじゃない!いいかい、新しい施設(コミュニティ)に行って、また同じことを言ったら、私は責任を取ってあんたを殺すよ。くそっ、今だって、恥ずかしくて、恥ずかしくて、殺してやりたいんだっ!」

「た、頼みますから、一度でいいですから、門をみてください!お願いします!」

「ほい、ほい、早速荷物をまとめてもらおうかの」

「門は開いている!門はずっと開いていたんだ!」

「ふむ、精神のバランスが危うくなっておるようじゃから、みなで荷物を持ち出すのを手伝ってあげなさい」

「冗談でしょう!?あ、おい、みんな、どこ行くんだよ!こっちにきて、ここから門をみてくれよ!ねえ、頼むよ、一目でいいんだ、ほんの数秒、本当に、一瞬でいいから、待ってよ!行かないで!行かないで!行かないで・・・・・・」


無職安定所

この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり。そんなみなさんの心のスキマをお埋め致します。いえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。さて、今日のお客様は・・・・・・。

「はぁ、またダメかぁ。いつまでこんなこと続けなきゃいけないんだろう。毎日毎日、興味のない会社に、嘘だらけのアピールして、断られて、落ち込んで、はぁ・・・・・・イッタッ!」

「おっと、これは失礼いたしました。おケガはありませんか?」

「ああ、いえ、こちらこそボーっとしていてすいませんでした」

「ほう、だいぶお疲れのようですな。まだお若いのに、顔も少しやつれて」

「ははは、ちょっとうまくいかないことばかりで」

「何かお悩みがあるようですね。よろしければ、私が話を伺いますよ」

「えっ!?そ、そんな、会ったばかりの人に、悪い・・・」

「申し遅れました。私、こういう者です」

「心の、スキマ?」

「ええ、私はボランティアで悩みを抱えている方を支援しているのです。ささ、そんな遠慮なさらずに。ここは私が奢りますから」

・・・・・・

「なるほど、それでは、労土(ろうど)さんは就職活動に身が入らず悩んでらっしゃるわけですね」

「ええ、自分が何をやりたいのかわからないっていうか・・・・・・。どの仕事も社会を支える尊い仕事だとは思うのですが、いまいち本当に役に立ってる気がしないというか。それでこのまま就活を続けていいのかわからなくなって。けど、親は「コラ、自己同一性(あいでんてぃてぃ)!ブラブラしてないでちゃんと働きなさい!」とうるさくて」

「ほほう、あなたは自分自身の心と社会における役割とを一致させることができずにいる。所謂アイデンティティの危機というやつですな」

「アイデンティティの・・・・・・危機?」

「ええ、社会の中でするべきことを見つけられない若者が、心と社会的要請との矛盾を解消できぬまま、無力感に苛まれながら彷徨い続け、やがては広大な文明社会に飲み込まれ、心も人生も失ってしまうのです」

「そんな・・・・・・」

「そうならないためには、早急に確かな道標をみつけなければならない」

「道標?」

「ここへ行ってみてください」

「はあ、無職安定所?」

「ハイ、そこはある有力者が、今の社会には無職こそが必要であると考えて設立した無職養成機関・・・」

「就活で悩んでる相手に、無職?」

「今の社会は職に就くことを促す言説で溢れています。あなたはそんな社会で道に迷い、矛盾に苛まれていらっしゃる。ならば、その反対に無職に就くことを促す言説に触れてみるのが良いでしょう。もちろん、受講料は無料。さらに、修了するまで生活の面倒を全てみてもらえるのです」

「ええ!?いくらなんでもそんな都合のいい・・・」

「まあまあ、とりあえず行ってみてください。あなたの求める「答え」がきっとみつかるでしょう」

・・・・・・

「・・・・・・というわけで、就活を続ける気がなくなってしまって」

「なるほどね。そうやって疑問を感じて立ち止まることは、世間では変な目で見られがちだけど、私は絶対に必要なことだと思うよ」

「そ、そうでしょうか?」

「うん。ところで君は労働って何だと思う?」

「えっと、そうですね、自分が成長できる機会、人が幸せになる手段、あとは・・・・・・」

「今の労働はね、自己中心的になりすぎているんだ。社会や他人が何かを必要とし、それを満たすために労働の必要が生じる。それと技術や資源に応じて、人間が労働する必要が生じる。意欲と能力のある人間が働き、必要を満たす。実際は単純な過程なんだよ。技術は人々の積み重ねで、資源は自然の贈り物。この単純な過程の中で、今の人間の果たす役割なんて微々たるものだ。なのに、「人は働いて稼がねばならない」なんて決まりをわざわざ作るから、みんな自分のことだけで精一杯になって、自己中心的な動機で、自己中心的に労働するようになっている。過程から生じる果実をより多く奪う、より多くの分け前に与る、正当化のために「役割」をつくり、そういう「イス」を他の人よりうまく確保する、そんな競争を強いられているんだ」

「自己中心的・・・・・・」

「成長とか、アイデンティティとか、この過程とは本来何の関係もないだろう。変な決まりのせいでみんなが自己中心的になって、自分のイスを確保しようと、無関係なはずの言葉や理屈を躍起になって持ち込む。働かせてください!と過度に遜ってみたり、仕事を奪わないでください!と被害者になってみたり。もちろん労働に何かを見出すのは自由だが、そうした「何か」をあたかも「人間の条件」のように扱うようになると、自己中心的な価値観が増殖して、社会や他人のことを疎かにするばかりか、確保した自分の労働に執着し、進歩や発展を邪魔しはじめる。創出された「役割」も実は邪魔なだけかもしれないし、提供されるものも実は邪魔なだけかもしれない」

「働くことが・・・・・・そんな・・・・・・」

「無職は寄生虫と言われるけど、ただ純粋に消費しているだけならば、過程の循環に必要な「消費」を担っているだけだから、別に寄生でもなんでもない。というか、過程に寄生しているのはむしろ賃金労働者の方なんだな」

「ということは・・・・・・反社会的なのはむしろボクの方・・・・・・」

「ここで考えを改めていけばいい。少しずつ納得していって、矛盾を解消したうえで何をしていくか決めよう」

・・・・・・

「いやあ、素晴らしい施設を紹介していただきありがとうございます!」

「おやおや、気に入っていただけたようで何よりです」

「あのまま就活を続けていたら、自分の心に合わせようと役割を過大評価し、オレが社会を支えてるんだ!なんて言ったり、社会や他の人に害為すことを「社会貢献」と言い張ったりしていたと思うんです」

「それはよかった。ただし、一つだけ約束してください。矛盾を解消し、これだという確かな道標をみつけるまでは、絶対に就職活動を行わないでほしいのです」

「え、あ、はい。ははは、ボクとしても、初めからそのつもりでしたから」

「いいですね。もし就職活動を行ってしまったら、あなたは矛盾に耐えられず、大変なことになりますよ」

・・・・・・

「もしもし、ああ、母さんどうしたの?」

「・・・・・・」

「母さん?」

「自己同一性(あいでんてぃてぃ)、落ち着いて聞いて・・・・・・お父さんが、会社をクビになった」

「え?」

「それでね、お父さん、会社のお給料もかなり減らされてて、あんたには言ってなかったけど、実は借金が・・・・・・」

「うそだろ・・・・・・」

「お願い、自己同一性(あいでんてぃてぃ)!まじめに働いて!あんたしかいないの!お願い!」

・・・・・・

「採用!?本当ですか!?はい、はい、全力で働かせていただきます!はい、頑張ります!よろしくお願いします!・・・・・・はぁ~、よかったぁ~。へへ、ボクだってその気になれば、自分を偽ることぐらい・・・」

「労土さん」

「げえっ!?」

「あなた、約束を破りましたね」

「い、いや、これは仕方なく・・・」

「いいでしょう。そんなに働きたいのなら、私が今すぐに矛盾を解消してさしあげます」

「あわわわわ・・・」

「ドーン!!!!」

・・・・・・

「おらおらぁ!カネ稼いでんのは誰だと思ってんだぁ!?おい!?オレ様だよ、オレ様!オレ様がカネを生み出してんだろうが!」

「自己同一性(あいでんてぃてぃ)!もうやめて!」

「ひゃーっはっはっは!社会の役に立たないクソ無職は死ね!おら!おら!オレ様が会社、いや、社会を回してんだよ!同僚も、客も、会社も、社会も、みんながオレ様を必要としてるんだ!うひょ、うひょ、うひょ」


「働くために自分を偽るぐらいなら、いっそ染まりきってしまう方が幸せなのかもしれません。オーッホッホッホッホ」


君は今何をしているの?

ねえねえ あいつ 覚えてる? あいつだよ あいつ
あいつ 今度 子供がうまれるんだって
いいよなぁ みんなもうそういう年齢なんだよなぁ
知ってた? あいつ あの大会社に勤めているんだって
凄いよなぁ 羨ましいよなぁ あいつ 成績良かったもんなぁ
そうそう あいつは あいつと 今度 結婚するんだって
びっくりだよなぁ けどまあ あいつも あいつも 見た目いいもんなぁ
ああ うん こっちもね 一応真面目に働いて 結婚もして
色々大変だけど なんとかやっているよ
それで 君は 今 何をしているの?
話しなよ 教えたんだから
教えなよ 話したんだから
ねえ 君は 今 何をしているの?

君がちゃんとできているか みんな見ているよ
君がちゃんとできているか みんな知っているよ
君がどこに隠れても みつけるのなんて朝飯前
君がどこに逃げても 夢の中まで迎えにいくよ
ねえ どうせなら 自分の口から言いなよ
君は 今 何をしているの?

黙っていても 君がちゃんとできているか みんな知っているんだから
親たちに乗って 世間様に乗って お友達に乗って どこまでも追いかけていくよ
あの子 今度 子供がうまれるんですって
あの子 まじめないい子だったから
あいつ 成績良かったからなぁ
誰も逃げられやしないんだ

大丈夫かナア 心配だナア
歪み合う顔は生気に溢れ
歪み合う顔は優越に満ち
歪み合う顔は恐怖に綻ぶ
あの子 今度 子供がうまれるのに
あの子 まじめないい子だったのに
あいつ 成績良かったのになぁ
大変だナア もう終わりだナア ああなっちゃいけないナア

ところで 君は 今 何をしているの?
逃げようたって そうはいかない
誰も助けてくれないよ 味方なんてどこにもいないんだ
早く こっちにおいでよ
みんな こっちで待っているから
みんな 話終わって あとはもう・・・・・・

どこからともなく わらわら わらわら
まだまだ どんどん わいてくる
それ自体について何ら省みることのない生物として
本能のまま 嗤い 怖れ
気づくことなく 掟(プログラム)に従うんだ
わかるだろう? これが この世界で生きるってことなんだ
こそこそ こそこそ ご褒美を探し回って
びくびく びくびく 自分がご褒美にならないように・・・・・・

嬉しいなぁ 嬉しいんだなぁ
容姿 経歴 収入 家庭 お家柄
みても劣等感に苛まれるだけだから
できるだけみないようにするんだけど
好奇心には抗えず 甘い匂いに誘われて
ついつい みちゃう ちらちら みちゃう
けど 大抵は視線をいなされ 羞恥を賛辞に変えてお茶を濁すことになる
だからこそ
地を這う自分たちの手が届きそうで届かない所
恵まれた繭に包まれてぬくぬく生きていると思ってた奴が
ある日突然 手足がもげて青ざめているのをみたら
ある日突然 羽のない奇形だったなんてわかったら
嬉しいなぁ 嬉しいんだなぁ
みんな 大喜びで 地におちてくるのを今か今かと待ち受けて
中には 待ちきれなくなって引きずりおろしに行くのまでいて
本当に嬉しいんだなぁ
地を這う者にとって これ以上のご褒美はないんだろうなぁ

心配性の飛ぶ者にとっても これ以上のご褒美はないんだろうなぁ
地を這う者をけしかけて 引きずりおろすのを手伝って
自分を脅かすんじゃないかと怯えながらみてた相手が
蟻に群がられる虫みたいに 次から次へと 纏わりつかれて・・・・・・
じわじわ じわじわ 弱って 抵抗をやめて 動かなくなったら
這う者も 飛ぶ者も みんな一つになれるんだ
何度みても 性を体現したほほえましい光景
ご褒美の前ではみんなが平等 やりがいだなぁ

つまり みんな一生懸命生きているだけなんだ
わかるだろう? 悪意なんてこれっぽっちもないんだ
ただ 無邪気に 食い散らかして いつの間にか綺麗さっぱり忘れている
純粋だろう? 悪意なんてこれっぽっちもないだろう?
我々は知的生命であるがゆえに精神的栄養を補給し続けねばならないのであります
なんてね えへへ
歓喜熱狂垂涎その後・・・・・・

ナイフ? フォーク? そんなもの使わないよ
生でやるのが一番おいしいんだなぁ
手でちぎり取った肉を 口に頬張り くっちゃ くっちゃ
傷から流れる甘い汁を ぺろぺろ ぴっちゃ ぴっちゃ
みんな もう 化学物質の言いなりで 食事に夢中
どんなに下品な音をたてても 誰も聞いてないから大丈夫
ご褒美がどんなに叫んでも 誰にも聞こえないから大丈夫

悪意があるとするなら それはご褒美の中にあるんだ
ご褒美は恵まれた繭に包まれて みんなを見下して吸い上げた養分でたっぷり肉をつけて
甘味いっぱいの濃厚な液体を溜め込んで 身体をパンパンに膨らませて
いい匂いを ぷんぷん ぷんぷん まき散らして
だから みんな ついつい ちらちら みるしかなかった
酷いことするなぁ 匂いだけかがせて みんなをいじめて・・・・・・
悪いのは君なんだよ
いじめられたうえに ハラペコを紛らわす共食いばかりじゃ みんな嫌になっちゃう
これじゃ いつも 化学物質の言いなりで 我慢なんてできっこないよ
ほら どこもかしこも 君をみつめる
眼球 眼球 眼球 眼球

ねえ 君は 今 何をしているの?


プロフィール

遊民

Author:遊民
読みたい本が山積みなのでニートしてます。

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