自己紹介ではない自己紹介

空の青さがなぜか不気味で
清々しいはずの風も不自然で
お天道様は急転直下奈落へ転落
夜空に浮かんだ星たちも 手を伸ばすほど遠のいて
遠のいて 遠のいて
生きることまで 遠のいて

都会の夜には新聞紙
雨に濡れて びしょびしょ ぐちゃぐちゃ
靴跡と異臭にまみれながら
惨めにぬっちゃり張り付いて
踏まれ 千切れて 醜く果てる
誰かに見向かれることもなく
晒されるまま 果てるまま
道路にへばりついたガムのように
忘れられることさえもなく

突きつけられた現実は あまりにも正しすぎて あまりにも残酷で
虚無を夢と隠さんと 無我夢中 貪るしかなかった
確かな存在としての夢 気がつこうともしないまま
夢は夢を貪り 夢は夢を貪り・・・・・・
繰り返される 夢の形をした世界は綺麗?

ピッピッピッー
ピッピッピッー
カネの奴隷の子守歌 はっじまっるよっー!
ハイ!イチ、ニ、イチ、ニ!イチ、ニ、イチ、ニ!
未来に向かって行進開始!

自発的生誕 よくできました!
自発的環境選択 よくできました!
自発的強制参加 よくできました!
自発的進路選択 よくできました!
自発的就活 よくできました!
自発的労働 よくできました!
不調 忍耐 強行 崩壊 全て自発的に行った結果!
自発的落伍
あ~!いけないんだ!いけないんだ!収入源、絶ってやろ!

金の枷を舐め回して誇らしげに唄うお兄さん
「おしごと いただき ありがたや!」

金の枷に頬ずりして誇らしげに唄うお姉さん
「ここは天国だ!」

紙の枷を破らぬよう丸くなって唄うヒト
「競争協調目的合理!
 労働自立意味効率!
 将来経歴自己利益!
 賃金税金年金借金!
 働く!頑張る!賃金いただく!単純明快!自然法則!」

ハイ!イチ、ニ、イチ、ニ!イチ、ニ、イチ、ニ!
満員電車で爪立ち絶叫
生まれてきて よかったナー!
あっはっはー 踏んで 奪って 殺すが人道!
ならば せめて 愛したい

何がきみにそうさせるのか?

夢でできた皮に 愛情をたっぷり注ぎますと
あら不思議 黒い液体となって
ぽたぽたと滴り落ちてくるのです
かわいいのは かわいい頃だけで
それでも常識が優先されます
慰み者になった気分は幸せ

幸せ願って 投資しろ
幸せ願って 教育しろ
幸せ願って 働かせろ
踏みつけ わらえ
奪って わらえ
殺して わらえ
日々 貢献 して わらい誇れよ鬼畜の所業

愛情に似せた愛情と
幸せになってほしい なんて文字列で
全て赦され気分爽快?

禍々しい全体の中で
禍々しい全体に夢を託しながら
それでも逞しく輝く小さな生命
なんてものが都合よく存在するとでも?
夢は夢を貪り 夢は夢を貪り
自らを模した人形を掲げて かんぷあい

何がきみをそうさせたのか?

空の青さがなぜか不気味で
清々しいはずの風も不自然で
お天道様は急転直下奈落へ転落
夜空に浮かんだ星たちも 手を伸ばすほど遠のいて
意味も呼吸も 遠のいて
生きることまで 遠のいて
スポンサーサイト

目覚ましの音が届かない所へ

Aはアパートに帰宅すると、惰性で購入した弁当を力なくテーブルに置き、そのままイスに沈んだ。弁当の重み、漏れ出る生温いにおい、ビニール袋の残響。いい加減、こびりついて、離れやしないのに、今日もまた、これでもかと上塗りしてくる、忌まわしい日常。日常の侵食と増殖からこれっぽっちも守ってくれない、アパートの壁。時計は既に0時を回っていた。弁当を食って、風呂に入って、少しうとうとしたら・・・・・・袋が重力に従って萎える様が枯れた植物を連想させ、憂鬱に拍車をかける。

残業撲滅の風潮に反応し、Aの会社でも様々な「対策」が打ち出された。しかし、それで仕事の総量が減るわけでもなく、むしろ「対策」対策にも時間と思考を割かねばならなくなり、現実はこのありさま。Aは仕事が増えるたびに出勤時間を早めるしかなくなっていた。どこまでいくのだろう。起床時間が6時台のうちは精神的にも肉体的にもまだ余裕があったが、5時台に突入する頃にはその両方が失われていた。6時から5時になるまでが2か月、そしてそれからたった1か月、起床時間はいよいよ4時台に突入する。「今は一時的につらいだけ」、そんな自己暗示の効力はとっくに消滅し、失われた余裕は今や雪だるま式に増える負債と化していた。「いつかまた7時に起床できる」、Aが縋った希望は一体何だったのか?

Aは弁当の袋をぼんやり眺めていた。食欲の芽は出ない。よって「食べる」という選択肢はなくなった。のに、Aは動けなかった。さっさと風呂に入って少しでも寝た方が、なんてことはわかっている。それでもAは動くことができず、ただ弁当の袋を眺める以外になかった。滲み出る油の光とベトリとした舌触りが思い出され、食欲の種は油に塗れて朽ちた。こんな弁当一つ食べるにも、けっこうな気力が必要らしい、Aは自分の中から「食う力」が失われつつあることに気づいた。「腹が減る、食う」、生物としての基本的営為が根底から崩れようとしている。もう弁当は無理だから、次はパンを買おう・・・・・・それで、パンが無理になったら、次は一体何を買えばいいのだろう?

ぐーぱーぐーぱー、かろうじて手が動くことが確認できたので、忘れないうちに目覚ましをセットしなおそうと思った。スマホを取り出し・・・・・・重いけど力を振り絞って・・・・・・タップ・・・・・・目覚ましを開いて・・・・・・設定時間を・・・・・・5時台から・・・・・・いよいよ・・・・・・4時台に・・・・・・4時・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・薄れゆく意識の中、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。

ドンドンドンドン!!ドアを叩く音でAは我に返った。
「バカヤロー!!今何時だと思ってやがる!!」
何時?時計をみると、0時半。どうやら10分ほど意識を失っていたらしい。
「こんな時間に大声出してんじゃねえ!!みんな仕事があんだぞ!?」
「出てきて謝罪しろや!この気狂いがぁっ!!」
「土下座!!賠償!!」
血の気が引いた。イスからずり落ち、そのまま床にへたり込んだ。絶叫の主は・・・・・・深夜に絶叫・・・・・・犯罪的睡眠妨害・・・・・・。
ドアを叩く音がボコン!!ボコン!!と激しくなり、ついに轟音と共にドアが吹き飛ばされた。怒り狂う労働者たちの脳内には「カギで開ける」という概念など存在しない。
「おーおーおークソガキィ!死ぬ準備はできてるか?」
女も混ざっていることに驚いたのも束の間、迫ってくる労働者たちをみてAは恐怖に震え出したが、いっそここで殺されてしまう方がいいのではないか、とふと思った。

ピコポコピコポコ、ピコポコピコポコ。不意にAのスマホが鳴った。瞬間、労働者たちの動きがピタリと止まり、次いで明からな狼狽をみせ始めた。
「おい、おい、これは何の音だ!」
「はぁ、はぁ、あぁ、うっ、目覚ましの音だ!間違いない!」
「なぜこんな時間に!?」
「大変だ!女が吐いて倒れた!」
Aは目の前で何が起きているのか理解できず、苦しみ悶える労働者たちを呆然と眺めていると、その中の一人と目が合った。
「お前・・・・・さては会社の回し者だな!!そうなんだろ、ええ!?オレたちをストレステストの篩にかけようって魂胆だろうが!!」
「なっ、なっ、なっ、何を・・・」
「クソ!!いいから早く目覚ましの音を消せ!」
Aは言われた通り目覚ましを止めようとしたが、手が震えてスマホをうまく操作できない。
「ちっくしょう!よこせ!!」
労働者の一人は決死の形相でAからスマホをひったくると、ガラス窓をイスで叩き割り、そこからスマホを放り投げた。

ピコポコピコポコ、ピコポコピコポコ。目覚ましの音はまだ聞こえてくる。
「とんでもない音量っ!!これまでか!」
「てめえっ!なんて設定してやがる!」
「うっ、うっ、わからない、ごめんなさい・・・・・・6時が5時になって・・・・・・5時が4時になって・・・・・・仕事・・・・・・もうどうしていいか・・・・・・混乱して・・・・・・」
労働者たちから敵意が消えた。
「ということは、君も・・・・・・」
「うっ、うっ、すいまぜんでぢた」
「はっはっは、そうか、そうか、そうだったのか!よし、手を貸してくれ!一緒に脱出しよう!」
「どこへ?」
「決まってる!目覚ましの音が届かない所へ!」
「しかし、ここはボクの家・・・」
「目覚ましの音が鳴り響く空間を、君は「家」と呼ぶのかね?」
「はっ・・・・・・」
「大変だ!女が白目をむいて泡を!」
「ああ、もう時間がない!さあ、手伝ってくれ!」
Aは労働者たちを支えながら、破壊されたドアを踏切版に、夜の闇へ飛び出した。

わっはっは!わっはっは!駆けながらみんな笑っていた。Aも笑っていた。食べ方と一緒に笑い方も忘れていたはずなのに、忘れていたことさえ忘れるほど自然に笑っていた。ついさっきまで瀕死の状態だった女もいつの間にか復活しており、隣で華麗なステップを踏みながら笑っている。
「ぶぅうーんっ!ぶんぶんっ!」
一人が両手を広げ、飛行機の真似をすると、みんなそれに倣って「ぶんぶんっ!」とやり始めた。
「わっはっは!ところでボクらはどこへ向かっているのですか?」
「さあね!目覚ましの音が届かない所へ!」
「ボクらはいつまで走り続けるのですか?」
「知るもんか!目覚ましの音が届かなくなるまで!」
わっはっは!わっはっは!
ぶぅうーんっ・・・・・・ぶぅうーんっ・・・・・・ぶぅうーんっ・・・・・・。
遠くで目覚ましの鳴る音が聞こえた。


ゲームをバカにする者はゲームの世界を生きる

「ゲーム感覚で学べる、ゲーム感覚で楽しもう、ゲーム感覚で・・・・・・」

「なにぶつぶつ言ってるんだい?」

「世間一般で使われてる「ゲーム感覚」って言葉が気に入らない」

「遊び半分でとかそんな感じ?」

「なんて言うかなぁ、ゲームを下にみてるというか」

「ふーむ」

「そもそもゲーム感覚でゲームをやったら負けの精神が身に付く」

「負けの精神?」

「たとえばポケモンの対人戦とかやったことある?」

「ちょっとだけ」

「何が一番大切だと思った?」

「やっぱり読みじゃないの?」

「読み切れば大抵は勝てるわけだからね」

「うん」

「けどいつも読み切るのは無理だろ?」

「そりゃね」

「むしろ読みが外れたり、想定外のことが起こったり、「読めない」ことの方が多い」

「読みを磨くにも限度があるね」

「読みが外れたら、君はどうなる?」

「あ~、動揺、焦り、苛立ち、集中力の低下」

「そうなってくるともう負けだろ」

「確かにね」

「つまり大切なのは、逆境に陥ったとき踏みとどまる力だと思うんだよ」

「展開が悪い時や思い通りにいかない時にいかに意識を保つか?」

「そうそう。だからそうなることを想定して準備しておく。事前にダメージ計算をして調整したりしてね。パニックになると「あれも、これも」と思考が空転し始めるから、事前にできるかぎり不安要素を潰して、土壇場で思考にかかる負担を減らしておく」

「それは何事においても大切だね。事前には「全部うまくでき(て)る自分」をイメージしがちで、そうすると「うまくできず慌てる情けない自分」を想定した準備が疎かになる。それとも準備が面倒だから「うまくできる自分」をイメージするのだろうか。まあ、どちらにせよこの環に嵌ると、相手や事態を舐めて誤魔化したり、「悪いことは起きない」と強がったり、「そうなったら仕方がない」と開き直るようになる。これもちゃんと開き直ってくれるならいいんだけど、実際にやばくなってから慌てだすんで困る」

「以前とあるオンライン対戦ゲームにはまったことがあって、これは上にいけばいくほど勝って増えるポイントより負けて減るポイントの方が大きくなっていくから、必ず訪れる悪い展開の時いかに「負けない戦い」ができるかが重要だった」

「君はどうだったんだい?」

「一番良い時でも最上位には入れなかった。自分の場合は、焦って一発逆転を狙いギャンブル的行為に走りがちだったんだ。「うまくできる自分」に執着しすぎて、「勝つ」から「負けない」への切り替えができなかった。これができないせいで制限時間を無駄にしてしまい、勝手に追い込まれてギャンブル、みたいな。カッとなってしょうもないミスをしてまたカッとなって・・・・・・という悪循環はあまりなかったけど、やはり切り替えができないときついね」

「たらればにも囚われる?」

「そうそう。「もっと早く決断できていれば」とか。「うまくできる自分」みたいなポジティブなイメージに執着してると、試合中なのに現実との落差で脳に余計な負担がかかるんだよね。それで我慢できなくなって、「たられば」とか「どうして」といった観念に思考が乗っ取られる」

「勝ちを積み重ねて上に上がっていくためには、土壇場で踏みとどまれるよう事前に「情けない自分」を想定して物心両面で準備しておくのが大切である、と」

「反省を踏まえて準備する際にも、「うまくできる自分」への執着があると、「結果的には最善手だったがその時点では絶対に選べなかった手」、言わば「幻想の最善手」を追ってしまうから注意が必要。(うまくできる)自分ならこの最善手を選べたはずだ、と考えると存在しないはずの意味やヒントをあちこちに見出してしまう。ポケモンの場合だったら、全てにうまく対処しようとして技や調整を変え始めると迷宮入りする。何かを選べば別の何かを諦めねばならない制約下でその都度「最善」を追うと、どこかで齟齬が生じ、その齟齬がまた別の齟齬を・・・・・・」

「ゲームは現実の自分の姿を知って付き合い方を学ぶ機会を与えてくれるね。けどそれを「ゲーム感覚」でやってたら妥協しがちになって、土壇場で踏みとどまれなくなる、と。幻想の自分の世界から抜け出せず負けの精神が身に付く、と」

「それだけじゃなくて、うまく言えないんだけど、ゲームをバカにしたようなこの言葉、なんか嫌な予感を喚起させるんだよなぁ」

「ふーむ」

「たとえばミサイルとか地震とか」

「というと?」

「あいつら大したことねーよ。きたらきたでしょうがないよ。そんなことしたって直撃したら意味ないだろ(笑)」

「人工知能や技術進歩なんかに対してもだよね。人間の創造性とか所詮機械とか言ってさ」

「備えようとしないどころか、考えること自体拒絶してる。「土壇場」を舐めてると思うんだ」

「舐めてなかったら準備するはずだし、まして準備しようとする人を茶化したりはしないね」

「そうなんだよ。「土壇場」だけじゃなく、人間があっさり思考放棄することとか、放棄した人間が短絡的で自滅的な愚行に走ることとか、そういうことまで含めて全部舐めてるんじゃないかと思うんだ」

「思考放棄すればその瞬間は重圧から解放されて楽になるからね。この欲求を抑えるのがいかにしんどいか、ってことまでをも舐めてる。舐めてるからこそ、土壇場を経験させてくれるゲームをバカにしてしまう」

「何かしらを真剣にやっていれば多かれ少なかれ土壇場を経験する機会があると思うし、それを知ってたらバカにはしないと思うんだよ。「ゲーム感覚」「カネにならない」「時間の無駄」・・・・・・」

「ゲームをバカにする者ほど普段から「ゲーム感覚」で物事に取り組んでいるのではないか、と。現実派?の方が実は現実を舐めてる妄想人間なのではないか、と」

「妄想の世界に没入して土壇場を舐めたままで・・・・・・大負けする奴の典型じゃないか」

「このままじゃ大負けの道連れってわけだ。いやいや、それにしても面白い話じゃないか、ゲームをバカにする者はゲームの世界を生きる、はっはっはっ」

「そうそう、直視せざるをえなくなったら笑って誤魔化す、これもよく使われる手法だよな」


文章が離れていく

たとえば書いた文字がそのまま飛んでいってくれたなら・・・・・・バカ野郎!!大切なのは現実だよ現実、現実をみろ、現実をみろ、現実をみろ、現実を、みろ、みろ、みろ。まずは現実をみないと話にならない。現実をみないと、困難を乗り越えられない。しかし現実をみるといっても、一体なにを?ほっほっほっ、バカがっ!!なぜ?この劣悪な脳で生きねばならないのはなぜ?なぜ?この劣悪な脳を持って生まれたのはなぜ?あーダメだ、切り替えろ、切り替えないと始まらない、いつまで経っても堂々巡り。しかし現実をみるといっても、一体なにを?あーあーあー、何回繰り返すつもりだ!

実際、これで何回目だろう?焦る、怒る、叩いて混乱、後、沈静化。原因不明、複雑怪奇?自分の無能をひたすら呪う。楽になろうと現実逃避。立ち向かおうと一念発起。しかし、なにに?痛む手をぼんやり眺め、ふと思う。何度も机を殴ったのに折れないなんて、骨ってのは本当に丈夫だなぁ。あれ、これで何回目だろう?あまりの頻度ゆえもう既にAの生活の一部になってしまった感さえある。

文章が離れていく。Aは物心ついた頃からこのことに気づいていた。書いている最中は「自分が書いている」という確かな手応えもあるし、推敲の際に読み直してもしっくりくる。文字はちゃんと自分の中に入ってくる。しかし書き終えてしばらく経ってから読むと、文字は中に入るのを拒絶し、スーッと離れていくばかり。おかしい。焦れば焦るほど文字はどんどん小さくなる。頼む、頼むよ、お願いだから。ゴマ粒ほどの大きさになった文字の群れが、ひょいひょいと飛び始める。

そのうちなんとか・・・・・・わらわら飛び回るきみたちは、そんな楽観じゃもう消えてはくれないの?ならいっそ本当に飛んでいってくれれば・・・・・・願い空しく文字の群はAにまとわりつく。手を伸ばせば逃げ、頭を抱えれば寄ってくる。なのに中には入ってこない。忌まわしい!!ドンッ、ドンッ、ひょいひょい、ドンッ、ドンッ、ひょいひょい。

やばい・・・・・・やばいよこれ本当にやばいどうすりゃいいの・・・・・・自分が書いたはずの文章を自分が書いた文章と感じられないって、どういうこと?内容や個々の表現の問題ではなく、なにかもっと根本的な、それゆえ掴みどころもなく、何が問題なのかも判然としない問題。自分の中の呼吸が書く段階でずれてしまっているのか、ってなんだそりゃ?適当な表現で誤魔化すことしかできないのぉ。

となると自分の無才を呪う他ない。幾ばくかの才能さえあれば、きっとこんな問題・・・・・・どうしようもないじゃないか!だって脳は変えようがないんだから・・・・・・え?脳は変えようがない?Aは戦慄する。脳は変えようがない。血の気が引いて脱力し、姿勢を保てなくなって机に顔面を打ち付ける。なぜだか全然痛くない。感覚がそちらまで回らないのである。

といことは、自分は生涯あいつらに付き纏われるのだろうか?そうだ、これが現実だ。なぜなら脳は変えようが・・・・・・いや、きっとみんな同じさ、これは言語に疎外された人間というもっと一般的な問題に含まれるのだから仕方ない・・・・・・で済むか!逃亡を試みたコンマ数秒前を悔やむ。この数十秒間の不毛を悔やむ。後を引き数時間無駄にするであろうことを悔やむ。あいつらの出現を許したことを悔やむ。生まれてきたことを悔やむ。過去も未来も現在も悔やむ。

くそっ!あまりに薄弱!これだから無能は・・・・・・いいか、仕方ないじゃ済まないんだここで踏ん張れ。踏ん張れ!脳がねじれだす。あぁ・・・・・・ぅっぅっ・・・・・・。理性で抑えつけるも、腹の底で蠢くものの一部が口の隙間から這い出てくる。理性を援護しようと頭を鷲掴みにする。矛盾のせいで顔面左半分は苦痛に歪み、右半分は怒りでひきつっている。溢れた衝動が右手に向かい、本の山を直撃する。バサバサと、山は音を立てて崩れた。あっはっはっはっ、あぁ、面白い、これがAの人生だ!ははははは、あぁ、滑稽だ、滑稽だ、笑い過ぎて、涙が止まらない。


苦労教

「苦労教って知ってる?」

「知らないけど名前で大体」

「うん、「他人は自分と同じ(あるいはそれ以上の)苦労をしなければならない」を実践する宗教だね」

「ひどい奴ら。そんな人間、実際にはほとんどいないだろ」

「「自分たちがしてきた無駄な苦労を君たちまでする必要はない」と言って手を貸してくれる人がいたら、どう思う?」

「神様じゃん」

「つまりそういうことだよ」

「苦労教徒が多すぎて感覚が麻痺してるのか」

「大半の信者は消極的な追従者にすぎないのだけど、一部の狂信者のエネルギーが半端じゃない」

「源は不公平感だろうか?楽をするのはずるい、自分たちがバカをみるなんて許せない、当たり前の義務を果たさないのはダメ、とか」

「敵に対する場合だと、不公平感も大きな源の一つになるのだろうね」

「敵の場合?」

「「苦労」をおとなしく受け入れて従う味方に対しては、「優しくて親切」だろ?」

「というと?」

「困ったことがあったら何でも相談してね」

「いるね。そんな気遣いはいいから、改革してくれよ」

「こういうことがやりたいんだよ。実際、改革は絶対にやろうとしないくせに、相談なんかのためには忙しくても時間をつくる」

「苦労を語り、聞き、共有するのは、なんだか嬉しいというか、認められたと感じるというか。あとは、自分が耐え抜いた苦労でひーひー言ってる人をみたら自尊心が満たされるとか」

「苦労が役割を提供し、交流のきっかけや誇りを与え、信者同士の絆を醸成する」

「同じ苦労を共にした経験を語り合いたい、同じ苦労をする人の力になりたい、同じ苦労をする人を応援したい、苦労を耐え抜いたことで認めてほしい」

「つまり「同じ(と感じられるような)苦労」をしてもらわないと困るんだよ。信者にとって苦労は前提、存在理由を問うてはならないのさ。ずっと当たり前のこととして考え、行動し、時には信者同士で愚痴を言い合ったりしてきたんだから。それは既に生活の一部になっていて、個人の思考様式やら将来設計やら集団の価値観やらにも入り込んでいる。ここまでくると、それ自体について考えようとするだけで大きなしんどさを感じるようになるから、「伝統だから」とか「みんなやってきたから」で済ませるようになる」

「「押し付けている」という感覚さえなくなるんだろうね」

「だから改革には全力で反対するし、信者にとって改革者は神様ではなく、自分たちの存在価値を脅かし秩序を乱す裏切者なんだな」

「裏切られたとか、はしごを外されたとか、無理やり変えられたとか、とんでもなく酷いことをされたように感じるのだろうか?」

「さあね。ただ神を潰して改革を骨抜きにするエネルギーは相当な大きさだろう」

「神が殺されるのをみんな黙って見てるだけ・・・・・・」

「負のパワーに威圧されたのか、相手の「期待」を慮ったのか、苦労を経験していないことに負い目を感じたのか。まぁ、これから苦労するみんなも、いきなり押し付けられるわけではないからね。その頃には既に苦労が生活の一部になっていて、こっちもまた「押し付けられている」という感覚がなくなってる」

「大抵の場合、苦労経験者は先輩ってのも大きいんじゃない?」

「キミは入ったばかりでまだ経験が浅いからわからないかもしれないけどなぁ」

「下の者同士で結束してもあっさり弾かれるよね」

「なんかさぁ、最近全体的に雰囲気悪くない?」

「反抗の空気を敏感に察知して、ネチネチプレッシャーをかけてくる」

「結局みんなで我慢することになるんだけど、みんなで無駄な苦労を続けているうちに、苦労に目覚める奴も出てくる」

「あれ・・・・・・受け入れられてる・・・・・・?」

「みんなで苦労してると一体感が生まれてくるんだ。そして「頑張ってくれてありがとう」とか「感謝してる」とか、こういう一言一言の発信・受信が共に快感・高揚感をもたらしだす」

「内部崩壊だ」

「崩壊する方がましさ。ここで「最高の仲間」との横のつながりでもできたら、世代交代しても改革の目が無いままだ」

「苦労は増える一方である」

「そういう苦労に「実利」を装わせるからまた腹立つんだ」

「苦労した経験はきっと役に立つから」

「苦労教徒とすれば事実なんだろうがね」

「無駄な苦労をしてるとは思いたくない、となると苦労教徒になるしかない」

「無駄な苦労であればあるほど、無意味であればあるほど、苦労は意味を持つものなのさ」

「ひどい宗教だ」

「ところで、現代社会における代表的な苦労は言うまでもなく労働である」

「勘弁してくれよ」

「「働いて豊かになる」とか「成長」とか、ちゃんと「実利」を装わせてるだろ」

「人間の能力など高が知れている。必要とされる高品質のモノやサービスをより多く効率的に生産・提供するには、人間を機械に置き換えていく必要がある。人間の労働を減らすことで豊かになる」

「それを可能にするのはこれまでの積み重ねと一部の人の労働であって、賃金分配のために創出された/守られている労働ではない。人間が働き続けたらいつまで経っても豊かにならない」

「その一部の人を支えているのは他の多くの人の労働で、さらにその人たちを支えているのは・・・・・・といった世界観があるね。苦労=労働はどれも有益だから互いに感謝し合おう、みたいな」

「今現在の必要を満たすための労働なわけだが、雇用を守るために創り出される「必要」、ピンハネを正当化するための「必要」、カネのために宣伝される「必要」、「人間にとっての必要」ではなく「労働者にとっての必要」、こういう「必要」がごちゃ混ぜになってるせいで、なにがどう無駄なのか判然としない。個々の業務も、どれが無駄かはっきりとはわからない。その隙を突いてくる」

「そういう「必要」のために無駄なことをしている、とはならず、みんなが頑張って働いてくれているおかげで、となる」

「逆に、人間が必要としていても、カネがなければ手に入らない。カネがなければ廃棄処分。カネがなければ生産さえしてもらえない。そしてそのカネは苦労=労働に紐付けられている」

「強制をなくせば、件の世界観が正しいかどうか明らかになってくるはずだが、そもそも「強制」という感覚がないし、現状に疑問を抱いている人でさえこれをなくすことはタブーと考えていて、どこからか「良い所」を探し出してきて肯定してしまう。無駄な仕事がなくなったら存在価値を感じられなくなる人が出てくる、みたいな」

「強制された苦労=労働をそうと感じなくなるほど深く受け入れてきたいじょう、こいつが最善で最高でないと困るんだよ。そして最善で最高であるからこそ、全力で守ろうとする。こいつは「人間が作った制度」ではなく「自然」であり、他の選択肢は無い。あったとしても、全てこいつより悪くなくてはならない」

「豊かになるのを邪魔し、「実利」を装わせて望まない人間にも無駄な苦労を強制し、「適応」できない人間を追い込んで見殺しにする。これが「社会貢献」か。変な妄想のために、このまま人生を無駄にし続けないといけないの?」

「強制?人生の無駄?何を言ってるんだい?確かにつらいことは多いけど、そのおかげで今の豊かな生活があるんだよ?だからみんなそれぞれ目の前の現実と向き合って、誇りを持って頑張ってるんじゃないか。みんながみんなで支え合って、みんなが自分のやるべきことをしっかりやって、さ。人類ってのは、そうやって繁栄してきたんだよ?それとも君は、共産主義でみんな平等に貧しくなる方がいいって言うのかい?パチンコと酒に溺れるだけの生活の方がいいって言うのかい?人権も自由も豊かさも捨てて、悲惨な貧困を受け入れろって言うのかい?目先の利益に囚われて、地獄への道を進めって言うのかい?」

「え?」

「案ずるな。消極的とはいえ、もう加担しちまってるんだよ。だろ?今までの苦労だって、意味で溢れているじゃないか。少なくとも、我々のチームにとって君の頑張りは大きな価値を持っているし、その経験は我々にとって、そして君自身の人生にとっても、大いに役に立つと思うんだ。ははは、だから人生の無駄とか言うなよ?な?みんな君を必要としているんだ。ね?今は我慢のときさ。うん、君には本当に感謝している、ありがとう」

「冗談だよね?」

「休憩は終わりだ。モードを切り替えろ」


プロフィール

遊民

Author:遊民
読みたい本が山積みなのでニートしてます。

twitter
最新記事
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる