鏡の国の自己紹介

「おい、ニート!働いてないのに、よく罪悪感を抱かずにいられるな」

「おい、労働者!働いているのに、よく罪悪感を抱かずにいられるな」

「はあ?労働は人としての義務だろうが!」

「はあ?余計な労働をしないのは人としての義務だろうが!」

「へぇ、なにをもって余計かどうか決めるの?」

「へぇ、なにをもって必要かどうか決めるの?」

「求人があるってことは必要ってことだろう?」

「頭下げるってことは余計ってことだろう?」

「なにが余計だ!オレたちが働いて社会を進歩させているんだぞ!」

「なにが必要だ!明日も自分たちが働くために働いて進歩を邪魔しているんだぞ!」

「言い訳並べて社会に寄生して消費する、恥ずかしくないのか?」

「シゴト創って富を生み出す過程に寄生してカネを貰う、恥ずかしくないのか?」

「労働者のみなさんの成果物を分けていただくためにこちらも労働を提供する、当たり前のことだよね?」

「過去からの積み重ねと自然の成果物を分けていただくのに何もする必要はない、当たり前のことだよね?」

「ニートには労働者のみなさんに対する感謝が無いんだな」

「労働者には機械や自然に対する感謝が無いんだな」

「あのね、ニートは労働者に生かされてるんだよ?」

「あのね、ニートも労働者も機械や自然に生かされてるんだよ?」

「社会に貢献したこともないから、生意気言えるんだろうな」

「社会に貢献する気がないから、誇大妄想に囚われるんだろうな」

「憐れだなぁ。毎日不毛に怠けて過ごしてたら、成長できないよ?」

「憐れだなぁ。毎日不毛な競争して過ごしてたら、「成長」から脱却できないよ?」

「働いてないくせに働いている人をバカにして、よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「働いているくせに働いてない人をバカにして、よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「まじめに働いているのに、責められなきゃいけないの?」

「まじめに働いているから、責められなきゃいけないの」
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何だか妙に寂しくて

「夏の夜って寂しくならない?」

「人恋しくなるってこと?」

「いや、夏の夜、遠くにみえる街の光を風に当たって眺めていると、今日も人が生きているんだなぁって」

「季節関係なくない?まぁいいや、それで、人が生きていることが寂しいわけ?」

「人の生き方が寂しいのかな」

「暑すぎて頭沸いたんだね。で、たとえばどんな?」

「初対面の人が集まったとき、誰か二人が共通の趣味があることを発見するんだ。二人は磁石のようにカチッとくっつき、落ち着かなかった空気がこの二人を中心に秩序をもって回り始める。他の人たちが「自分も!自分も!」と我先にとくっついてきて、集団が形成される。これにくっつければとりあえず安泰で、くっつけなければきつくなる。こういうの、何だか妙に寂しくないかい?」

「くっつけないのはもちろん嫌なんだけど、「自分も!自分も!」とくっつくのも嫌だし、自分を中心にくっつかれるのも嫌だね。特にこいつが嫌だな。前の二つは嫌な理由がはっきりしているけど、こいつはいまいちはっきりしない。中心になって安泰も安泰のはずなのに、どうして嫌なのだろう?」

「それが寂しさの正体なんじゃないかな」

「他の人が笑いながら集まってきて、自分もそれを笑って迎え入れるんだけど、確かにこれってすごく寂しい。ニセモノっぽさとか、みんな必死な感じとか」

「生き残りが懸かっているからね。クラスにしろ、サークルにしろ、職場にしろ、生き残りが懸かっていて、だからみんな余裕がなくて、感覚を研ぎ澄ませて「生き残り」につながりそうなシグナルを探している。みつけるとワッと群がってくる」

「寂しいなぁ、やるせないなぁ。中心で人を迎え入れても、相手がとても遠くにいるように感じるもんなぁ。というかその場面自体が遠のいて、自分が自分の意志で動いているのかどうかも曖昧になるもんなぁ」

「これと同じようなやり取りが街のそこかしこで行われているのかなぁと想像してしまうから、きっと寂しくなるんだろうなぁ」

「寂しいといえば、三人のうち二人が協力しなければならないケースってのも寂しくない?」

「一人は必ず余らなきゃいけないってこと?」

「寂しいのは余ることじゃなくてさ、この三人が男男女だったら」

「あぁ、すごく寂しくなった」

「仮に男Aが女と協力するのが最も効率的だったとしても、男Bが自分の方がうまくできるとアピールしたりするじゃない、自分が女と組もうとしてさ」

「一人になるだけじゃなくて、女まで取られることになるから、必死になるんだ。全体のことなんて考えずに、自分、自分、自分自分自分。誇大妄想じみたアピール、いわれのない誹謗中傷、嫌み。そこまでするかと思うけど、生き残るためにはここまでするのが当然なんだなぁ」

「女も満更でもないどころか、むしろ嬉しそうでさ、自分が原因でひと悶着あったぞと。こっちも自分、自分、自分自分自分。争いのおかげで自分が一番強い立場を確保できたから、「生き残り」の達成が確実になったってさ」

「やるのも嫌、やられるのも嫌、自分が争いの原因になるのも嫌、男二人で組もうとして裏切られるのも嫌。けどみんなはそうは思ってないようで」

「これと同じようなやり取りが街のそこかしこで行われているんだなぁ」

「寂しいなぁ。これが人間だなんて考えじゃ、割り切れないなぁ」

「コンニチハ人間?」

「サヨナラ人間?」

「生き残りに必死で、余裕がなくて、自分のことしか考えられなくなって」

「けど、諦めたくはないなぁ。こんな寂しさの方が当たり前だなんて、思いたくないなぁ」

「みんなここにいるのに、誰もここにいない」

「寂しいなぁ」
「寂しいなぁ」


思考より試行

先日、「やりたいゲームを我慢し続け、大人になって買ったら全然楽しくなかった」といったツイートをみかけた。悲劇である。我慢しているうちに、年を取って楽しむ能力(体力や集中力)がなくなってしまった。感覚が変わってしまった。やる気がなくなってしまった。ふむ、しかし、そもそもそれは本当にやりたかったことだったのだろうか?

現代社会の生活は強制と義務の連続である。学校・受験・人間関係・労働税金労働税金・・・・・・我慢するばかりの毎日。しかし人間はただ我慢し続けることができない。そこで「先延ばし」である。「これ面白そう!」と思ったら、早速やってみるのではなく、目の前にぶら下げるニンジンにする。さらには「自分は○○な人間だからきっと××が好き/向いているに違いない」などと思考してイメージ・幻想=ニンジンを創出してしまう(就職活動ではこれができるかどうか試験される)。

幼少の頃から大量の「やるべきこと」を押し付けられる社会には、色々と自由に試す余裕が存在しない。となると「やりたいこと」「好きなこと」には少ない試行で辿り着か「ねばならない」が、当然そんな簡単に当たりを引けるわけもなく、したがって「これだ!」と思い込み、それを試さず先延ばしにすることになる。「いつか○○したい」「退職したら××するのが夢」と先延ばしにし続け、いざやろうとしてみたら/やってみたら・・・・・・思ってたのと全然違う!はて、自分は一体何をしていたのだろうか?日々の苦しみに耐えるために、合う/合わない感覚よりアタマ・思考(思い込みやイメージや幻想)を優先してしまうことで、えてしてこうした悲劇が起こる。

かつて私がまだ奴隷社会に適応しようと奮闘していた頃、私は海外に大きな幻想を抱いていた。理由は不明だが、当時の「理由」としては、「自分は好奇心旺盛だから、きっと海外旅行が好きに違いない」みたいな感じだったと思う。一人で海外旅行をすれば、価値観がひっくり返るような経験ができるのではないか?海外が何かを変えてくれる。海外が灰色の毎日を変えてくれる。いつか、働いてそれなりにお金が貯まったら・・・・・・。私もまたアタマを優先して幻想を創り、日々の苦痛、延々と続く強制と義務に何とか耐えようとしていたのである。

今思えば、大学在学中に無気力になったのが僥倖であった。感覚よりアタマを優先させる生き方が嫌になったのだろう。だが当時の私にはそうした認識もなかったので、幻想に従い海外に救いを求めた。

カネを貯めるためにアルバイトをやったのも良かった。一か月弱で辞めたのだが、初めての給料の数値を眼前にしたとき、ATMを破壊したくなるような衝動にかられた。心身ともに消耗しまくって、これっぽっち!?「自分で稼いだカネ」に対する感動は微塵もなく、あったのは賃金労働に対する憎しみだけ。こんなはした金を「お給料」とか言って有り難がれ?人間を舐めるのもいい加減にしろ。たった一か月弱の経験ではあるが、この賃金労働への幻滅がなければ、「働けばどうにかなる」といった労働万能幻想に囚われていたかもしれない。

海外旅行に出発。たった十日だったが、一人での旅行。海外旅行が好きな人からすれば十日程度で、と思われるかもしれないが、私はこの旅行のおかげで他国の文化・絶景・人々・食べ物・空気などなど、どれにもあまり興味が無いことがわかった。別に好きでもなんでもなかったのである。日本に帰ってきたとき抱いたのは「もう日本の・・・・・・いや、住み慣れた地域の外には出たくない。安住したい。外出は好物を食べに行く時だけで十分」という思いだった。海外に行ったことで何かが変わったのは確かだが、それは私が思い描いたような変化ではなかった。幻想が破壊され、胸に穴が開いたような、「自分は何をしていたのだろう?」と我に返ったような感じだった。

私は毎日読書をして文章を書いてたまに好物を食べに出かける、というだけの単純な生活を送っているが、この生活に「これだ!」と一発で辿り着いたわけではない。私もまたありきたりな幻想を色々と信じ、アタマを優先させる生活を送っていた。ただ人より早く脱落し、学生だったことが幸いして色々と試行でき、幻滅を繰り返し、合う方合う方に進んでいるうちに自然とこうなっていたのである。だからこそ満足度も高いし、「合っている」という感覚が正しさへの確信にもなっている。

現代社会では幼い頃から将来の職業を「考え」させる。早期に自分の道を「発見」することが称賛される。学校・人間関係・労働・税金といった強制と義務の連続が時間を根こそぎ奪い取る。このような環境に適応する中で習得するのは、「これが自分のやりたいことだ」と思い込み、それを目の前にぶら下げ自分を鼓舞して日々の苦痛に耐える、そんなスキルである。「あれをやれば何かが変わる」、こうしたイメージや幻想で自分を駆り立てるスキルである。しかし、所詮はアタマの中の思考。自分が「○○な人間」かどうかは時と場合によるし、○○な人間だったとしても××が好きとは限らない。いくら根拠を積み重ねて論理的に思考したところで、××を好きになるわけでもない。自分が「これがやりたいことだ」と信じていても、実際にそれがやりたいことかはやってみるまでわからない。

私は海外への幻滅を通じ、自分(人間?)が幻想を強固に信仰できてしまうことを思い知った。あの時行ってなければ、私は今も奴隷社会の要請に従ってアタマを優先させていたかもしれない。試行して「好き」や「やりたい」が現実と違ったとしても・・・・・・幻滅による空虚感と無気力、それでも容赦なく畳みかけてくる義務、義務、義務。結局は明日を生き延びるため、別の幻想に縋らざるを得なくなり、欲求と一緒に破局も未来に先延ばしする。幻想から幻想へ、そして訪れる大幻滅。現実とアタマの不一致が顕在化し、自分が何をどうしたいのかわからなくなる。

負のスパイラルをどこかで絶つ必要がある。ニンジンをぶら下げて自分を駆り立てる、バラ色の幻想を創って縋る、そもそも人間に合わないことを無理やりやらされ続けるからこうしたスキルが必要になるのである。思考を優先させ続ければ大抵の人はどこかで潰れるが、義務と強制は待ってくれない。精神的に借金漬けにして逃げられなくするシステムである。このシステムには必死になって消耗してまで従う価値がないことを認識し、アタマが創った幻想を試行による幻滅で地道に潰し、合う/合わない感覚を取り戻していく必要がある。思考より試行である。


よく罪悪感を抱かずにいられるね

「君、働いてないんだってね」

「ええ」

「よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「君、働いているんだってね」

「ええ?」

「よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「なんだと?」

「賃金労働に従事するばかりか、働いてない人に「よく罪悪感を抱かずにいられるね」なんて、よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「そういうことばかり言うおかしな奴だから、どこも雇ってくれないんだろうな」

「雇ってもらえないとどうなるの?」

「そんなこともわからないの?生活できないでしょ?将来困るでしょ?」

「なんで生活できないの?なんで将来困ることになるの?」

「それが現実だからだよ。働いて稼いで自立して生きる、当たり前のことだろう。まったく、現実みろよな」

「生産する技術はどんどん進歩してるっていうのに、次から次へとシゴト創って、結託して技術の開発・導入を邪魔して、まったく、現実みろよな」

「はぁ~、働いてないだけあって、感謝の気持ちがなさすぎるね。みんなが一生懸命働いてるから、今日も経済が回ってるんだよ?」

「みんなが働かなくなったら、経済が回らない」

「だろう?」

「けどみんなが働かずに経済が回るのなら、そっちの方が良い」

「だから何言ってんの?それじゃカネが手に入らないじゃない?カネがなければ誰も何も買えないじゃない?そしたら経済回らないじゃない?」

「人間抜きで生産可能なら、カネを配ればいいだけの話」

「あのねぇ、そんなことダメに決まってるじゃない」

「どうして?」

「どうして?って聞く方がどうかしてるよ」

「創出された雇用のイスを確保する競争をして、シゴトに人生を費やして、その代わりにカネを貰う、この流れが人間にとってそんなに大事?」

「働いてない人間にはわからないんだろうね」

「生産技術・知識・資源・インフラ・・・・・・これらが富を生み出す過程に無理やり寄生してカネを貰う、この流れが人間にとってそんなに大事?」

「寄生ってのはどういうこと?働いてくれてる人がいないと、経済回らないって言ったよね?」

「生産面で経済を回すのに必要な人って、実際どのくらいなんでしょう?生産過程における現役労働者の貢献分って、実際どのくらいなんでしょう?」

「だからさぁ、働く、社会に貢献する、その対価として賃金をいただく、こういう当たり前のことがどうしてわからないのかなぁ」

「働いてる人は社会に貢献したくて働いてるの?」

「当たり前だよ」

「自分よりうまくできる人がいたら、喜んで雇用のイスを明け渡すの?」

「いやね、その人にだって生活ってものがあるんだから」

「人間であれば必ず限界が訪れる。よって機械に代わってもらえるよう努め、それが実現可能になったら喜んでそうする・・・・・・の?」

「いやだから、労働者は労働者であると同時に消費者でもあるわけ。まったく、働いてない奴は社会の仕組みを何もわかってないんだなぁ」

「社会に貢献したくて働いてたんじゃないの?」

「生活が成り立たなかったら社会貢献なんてできないだろうが!」

「富は過去からの積み重ねと自然から得た資源で生み出される。その富の分配に際し、一体誰にどんな貢献をする必要があるの?向き不向きや景気の変動で雇われなかった人間をそこから排除するのはなぜ?罪悪感を抱かねばならないのはなぜ?たまたま「良いシゴト」を確保できたことでもって、創出されたシゴトをしたことでもって、「頑張った」ことでもって、独り占めと排除を正当化しようとするのはなぜ?わざわざ奪い合うのはなぜ?」

「そうやって子供みたいなこと言ってる暇があったら、少しでも働いて経験を積む方が良いと思うけどね。そのままじゃ生きていけないぜ」

「このままでも生きていけるようにすれば良い」

「あのね、そんなことしたらみんな頑張らなくなっちゃうんだよ?生活が懸かっている今でさえ、君のように大切なことを何も考えない奴が出てくるんだから」

「何も考えなくて済むならそれが一番」

「君にはわからないかもしれないけど、人間には心があるんだよ。現代社会ではね、職業がその人のアイデンティティになるんだ。仕事を通じて周囲に認められ、承認された実感を持てるんだ。わかる?ちょっと難しいかな。義務を果たさないことに対して悪いとか申し訳ないとか、ないんだもんね?あのね、仕事がないと、みんな生きていけないんだよ」

「そうなるのは私に向かって「よく罪悪感を抱かずにいられるね」と平然と言う君たちのせい。君たちが剥奪するせい」

「わかったわかった。まじめに正しく生きるつもりがないなら、好きにすれば?君みたいな人間には、何言っても無駄。誰も強制なんてしないから、ね?ただ君は将来困ることになる、これが現実ってだけでさ」

「まじめに正しく生きる人間が、まじめに正しく生きることが反社会的にしかならない仕組みを自明視し、まじめに正しく反社会的活動に人生を費やし、まじめに正しく生きるよう互いに圧力をかけあい、日々悪化し続ける大病をあえて無視し、アイデンティティだの承認だのといった詐病・仮病の問題化に耽り、今日もまたまじめに正しく義務を果たす。壊せ、殺せ、食い尽くせ、まじめに正しく、まじめに正しく・・・・・・まじめに正しく従っているだけだから、君はなぁにも悪くないのぉ。まじめに正しく生きているだけだから、君はなぁにも悪くないのぉ」

「働いてないくせに働いている人をバカにして、よく罪悪感を抱かずにいられるね」

「働いているくせに働いてない人をバカにして、よく罪悪感を抱かずにいられるね」


存在

仰向けになって目を閉じると 世界を遮断した暗闇が広がるから
懸命に 手探りで 宙に浮く自分の眼を掴み 瞳を覗き込むんだ
裂け目からの誘いに戸惑う間もなく 背中から落ちて
辿り着く先は 本当の世界

Aは何もない空間を歩いていた。いつ、どうやって、何がきっかけでここにきたのかはわからない。気が付いたときには、既にこの空間を歩いていた。特に驚きはない。こうなることは、なんとなく最初からわかっていた気がするから。

前から誰かが歩いてくる。不安と緊張、が、すぐに安心へと変わり、そのまま強者が弱者に対して抱く優越感を呼び起こした。あれは・・・・・・Bだ!かつていじめていたBだ!Aはまた軽くいじめてやろうとBに声をかけた。

悪いのは 誰かを踏みつける卑怯者じゃなくて うまくできない間抜け者
楽なのは みんなでうまくやる方じゃなくて 誰かを踏みつけてしまう方
優劣 上下 権力 支配
秩序 不信 収奪 保身
刹那的かつ微小な快楽をもたらし
欺瞞的かつ狭小な平和をもたらす
代償として 負に侵され腐食する
ただそれだけの存在

Bの顔を近くでみて、Aは不安になった。Bはニヤニヤ笑っていたのである。媚びと卑屈さが滲み出たお得意の表情、この期待に反して、Bはニヤニヤ笑っていた。

「やあ」

「やあ、Aサン、久しぶりだね」

「うん。ところで、昔と違って随分自信がついたように見えたけど、今は何をしているの?」

「エヘ、エヘへ、未来への希望を欠片も持つことなく、負け組として、ちゃんと無様に生きているよ」

「そ、そう・・・・・・あ、今急いでるから、またね」

「エヘへ、Aサァン、イケてるよぅ」

「え?あ、そう、ありがとう・・・・・・それじゃ」

「エヘへ、Aサァン、優秀だよぅ」

「わかった!昔のことは謝る!君に酷いことをして本当に申し訳なかった!実はずっと後悔していて、もっと早くに謝りたかったんだ」

「エヘへ、けど、Aサン、逃げようとしてたよ?」

「いや、それは・・・」

「ヘタクソキモイヘンノロマバカコミュショウテイノウ・・・・・・楽しいなぁ、エヘへヘヘ、本当に楽しいなぁ」

「頼む、恨まないでくれ!」

「恨む?そんなことするはずないじゃない?エヘへ、だって、ボクは存在だから」

Aが困惑していると、別の誰かがこちらに向かって歩いてきた。あれは・・・・・・Cだ!今付き合っているCだ!Aは救いを求めてCに声をかけた。

性欲の大地に 孤独の恐怖が種をまく
虚無と虚栄が肥料を施し 執着が日の光を浴びせると
醜く育つその花は 恋愛
デートにケンカに贈り物 本気プレイのドラマゴッコ
好き? 愛? リッチなディナーも思わず噴飯
一人はとっても寂しいの 空しい日々はもう嫌なの
他の奴らには負けたくない 誰にもバカにされたくない
好き? 愛? 嘘丸出しのレトリックで同族に釣られ
心を侵す価値観で染め合い 悦に入る
ただそれだけの存在

Cの顔を近くでみて、Aは裏切られたような気がした。Cはニヤニヤ笑っていたのである。自信と上品さに溢れた美しい表情、この期待に反して、Cはニヤニヤ笑っていた。

「どうしたの?」

「別に、どうも?」

「じゃあなんで笑ってるんだよ!」

「怒鳴らないでよ。別に、なんだっていいでしょう」

「いや、でも・・・」

「ふぅん、こんな知り合いがいたんだ」

「え?ああ、うん、こちらBさん」

「ゴミクズだね」

「エヘへ、どうも、はじめまして」

「うまくできないのに、蔑まれたくなくて頑張って、どうしようもなく滑稽。プライドが邪魔して支配されるだけの存在であることを受け入れられず、頑張って、頑張って、頑張り方もわからないくせに何とかしようともがき続けて、ようやく諦めて卑屈になったらなったで、支配と迫害はひどくなるばかり。ただ傷口が広がっただけでした」

「エヘへ、仰る通りでごぜぇます」

「ちょっとそれはさすがに・・・」

「それに比べて、Aサンはどんなに低く見積もっても平均以上」

「エヘへ、仰る通りでごぜぇます」

「やめてくれよ、なんなんだよ」

「ねえ、Aサン、相手を好きな理由を言葉にするのがどうして滑稽なのかわかる?」

「滑稽だなんて、何言ってんだよ!」

「全部嘘だから」

「エヘ、エヘ、大変勉強になりますです」

「理由なんて、相手側を探しても絶対にみつかりっこないのに、それをわかったうえであえてやって、嘘の理由を捻りだして、喜んでる・・・・・・フフ、フフフフ」

「お前ら何を企んで・・・」

「この世界の存在なんて、どこまでいっても、次にしてくることもわからない不気味な何かでしかないのに、それを「好き」だなんて・・・・・・楽しいねぇ、フフフ、本当に楽しいねぇ」

「わかった!何か悪いことをしたなら謝るから!」

「謝る?そんな必要ないじゃない?フフフ、だって、私は存在だから」

Aが怯えていると、別の誰かがこちらに向かって歩いてきた。あれは・・・・・・Dだ!将来Aのもとに生まれてくる予定の子供、Dだ!Aは寄る辺を求めてDのところまで走っていった。

優先するのは 現実よりイメージ
大切なのは 誰かの未来より自分の現在
与えるのは 愛情に似せた愛情
ねじれよじれて生まれるものは
性欲の大地 孤独の種
虚無と虚栄の肥料 執着の光
醜く育つその花は・・・・・・
夢を夢と貪り合い 永遠に繰り返す
ただそれだけの存在

Dの顔を近くでみて、Aは失望した。Dはニヤニヤ笑っていたのである。童心と好奇心に満ちた子供らしいかわいい表情、この期待に反して、Dはニヤニヤ笑っていた。

「何を考えているんだ!」

「なにが?」

「その笑いはなんだと言っている!」

「へヘヘ?」

「こいつ・・・」

「オヤオヤァ?あっち系の存在がいるぞぉ?」

「おい!この人はBさ・・・」

突然DがBに襲いかかり、Cもそれにつづいた。Aは呆気にとられてその光景を眺めている。CとDはBに噛みつくと、肉を引きちぎり、くちゃくちゃと咀嚼してペッと吐き出し、暴行を続けた。Bはボロボロになり、血まみれになっても、エヘ、エヘ、と笑っている。

「へヘヘ、オラ!オラ!」

「エヘ、エヘ、楽しいなぁ・・・・・・楽しいなぁ・・・・・・」

「ゴミクズはね、フフフ、自意識が強すぎるんだよ!わかる?妄想の自分ばかり肥大させて、プライドばかり高くて、現実のちっぽけで惨めな自分と乖離するばかり!バカだから自分の立場を受け入れられない、自分の立場を受け入れないからバカであり続ける、自業自得!」

「ヘヘヘ、お前は何の取り柄もない、ただ思うまま気の向くままに手足もがれ心なぶられるだけの存在なんだよ!」

「エヘへ、仰る通りでごぜぇます」

「やめろ!もうやめろ!いい加減にしろ!」

BとCとDはピタッと動きを止め、数秒、Aを凝視していたが、誰からともなく笑いはじめ、その笑いはすぐに爆笑の渦へと変わった。

アーッハッハッハッハッ!

「笑える笑える笑えるぞ!この世界に散々、参加、しておいて、今更?今更、充実、から逃げますかぁ?」
「子供から大人まで、毎日やってることじゃない?大人になって、ちょっと上達したからって、そんなこと言う?ただそれだけの存在だってことは、Aサンもよくわかっているでしょう?ね、ほら、ちゃんと存在を全うしてくれなきゃ、みんな困っちゃうんだ」
「悪いことはやめようってか?笑わせんじゃねーよ!参加者のくせにさぁ」

「なんなんだよ、なんでこんなこと・・・」

「なぜなら存在だから。ぐっちゃぐちゃに潰されて、忘れ去られる、ただそれだけの存在」
「なぜなら存在だから。手をつないで、一緒に踊ってるフリをする、ただそれだけの存在」
「なぜなら存在だから。キャッキャッと笑って、ママゴトに付き合う、ただそれだけの存在」

「ヘヘヘ、今更人間ヅラだなんて、ズルいよ。許さないよ。ここに存在した時点で、て・お・く・れ、取返しなんてつかないんだから」

「フフフ、こんな存在、所詮は肉の塊じゃない?人格?尊厳?そんなもんいつも通りさっさと踏みつぶせよ!・・・・・・だったらさ、もっと洗練されたやり方で・・・・・・そう、この存在を意識から外して、たくさん踏みつけてやる?うん、初めからそうすればよかった。そうだよね、こんな存在、あえてAサンの意識にのぼらせてやる価値もない。無意識に踏みつけられるだけの存在。だって、Aサンの方が「優れている」のは事実だもんね?事実!事実!事実!ねぇ?事実!!その自覚を陰で支えるだけの存在。意識することもなく、影を踏んで!踏んで!踏みつけて!ねぇ?これなら誰も血を流さないって・・・・・・フフフ、本当に?」

「エヘ、エヘ、配置された存在として、みんな世界の掟に従って全うしているだけ・・・・・・ささ、楽しんでくださいよ。今は・・・・・・いや、ボクという存在は常に・・・・・・あ・・・・・・」

「あ」
「あ」

Bの眼から一滴の涙がこぼれ落ちると、瞬く間にBの全身は炎に包まれ、灰と化し、風に乗って空高く昇り無数の星になった。その一部始終をボンヤリ眺めるCをみて、Dは目ざとく気づいた。

「触れてしまったのだ!」

Cの身体から何本もの黒い光の糸が飛び出たかと思うと、Cは包み込まれ、同化し、老いさらばえた姿となり、そのまま腐敗して液化し、川となった。

「お~ヨチヨチ、ヨチヨチ、撫でて、舐め回して・・・・・・これが愛情?・・・・・・楽しいなぁ、ヘヘヘ、本当に楽しいなぁ」

Dの身体は凍りつきながら炎に包まれている。

それでも 風の音は 綺麗

Dは唄を口ずさみ、うなだれながらも凍りついた眼でジッとAを見据えている。

それでも 川の流れは 綺麗

溶ける身体はみるみる蒸発していく。

それでも 星の色は 綺麗

Dの身体は蒸発し、後には凍りついた眼球だけが宙に残された。Aがその眼球を掴み、瞳を覗き込んだ瞬間、眼球は破裂し、Aの眼に突き刺さった。ウフ・・・・・・ウフフフフ・・・・・・、ニヤついた口から笑いを漏らさずにはいられない。恥ずかしい、けれど、みている者も聞いている者も、誰もいない。エヘ、エヘ、フフフ、ヘヘヘ、ウフ、ウフ、アーッハッハッハッハッ!存在に飢えたAは、誰かの笑い声が響き続ける空間を、再び歩き始めた。

一歩踏みだしたら もう戻れない不可逆的変化
一度歩きだしたら もう戻れない一方通行
いつから惨め? とっくに惨め(笑)
業を背負って歩いたところで 進む先には何も無く 振り返っても何も無い
それでも それでも それでも それでも・・・・・・
ただそれだけの存在

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遊民

Author:遊民
読みたい本が山積みなのでニートしてます。

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