都合のいい話

「タダでカネが貰えるって、都合のいい話かな?」

「世間一般からすれば、間違いなく都合のいい話にあたるだろうね」

「どうしてだろう」

「うん、そりゃあ、「タダ」だからだろうね」

「何の苦労もせずにカネが貰えるから?」

「そういうことだろうね」

「たとえば大昔にタイムスリップしたとして、その辺になっている果物をとって食べたとする。これは都合のいい話だろうか?」

「ははは、タダで果物を貰ったわけだ。う~ん、都合のいい話、ではないよねぇ」

「自然がつくったから?」

「今だってモノをつくってるのはほとんど自然と機械なのにねぇ」

「世間のみんなの主観的には「全てオレたちの手柄」「現役労働者の成果」になってるってこと?」

「だとしたら都合のいい話だなぁ」

「みんな自分の賃金・分け前を正当化するのに必死だ」

「働いて稼がないと生きていけない仕組みに執着するから」

「賃金に頼らないと生活できないわけだけど、仕事ってのは探せばそう都合よくみつかるものだろうか?」

「働くって相手の都合だもんね」

「労働は他人や社会の必要を満たすこと」

「賃金で生活するって、都合のいい話だなぁ。労働は君の生活のためにあるんじゃないよ」

「労働は人間を機械に置き換えて、より多くのモノをより安定的に生産できるようにしていくこと」

「雇用の安定は生活の安定、だから進歩は困りますって、倒錯した話だなぁ」

「機械が人間の雇用を奪うっていうけど」

「雇用のために機械の恩恵を諦めてくださいって、倒錯した話だなぁ」

「雇用のために進歩や効率化を犠牲にする。有害無益なクソシゴトをする。一生懸命働いた、苦労した、人生の貴重な時間を投入した、だからその「正当な対価」としてカネを貰うのは当然」

「都合のいい話だなぁ」

「他人や社会の必要を満たすために、できることをやる、誰もやりたがらないことをやる、これなら報われて当然だけどね」

「働いて報われないと生きていけないからお前ら困れ!満足するな!欠乏しろ!モノを求めろ!進歩を諦めろ!周りや見た目をもっと気にしろ!とんでもなく倒錯した話だなぁ」

「相手や社会に関係なく、働きさえすればその苦労の分だけ「ご褒美」があって当然」

「都合のいい話だなぁ」

「頑張れば給料が上がる」

「都合のいい話だなぁ」

「働くことで成長する」

「都合のいい話だなぁ」

「連中はその「都合のいい話」を自分以外の奴を犠牲にしてでもいいから保証しろと言っている」

「甘ったれてんなぁ。連中はそれでカネを貰い、社会に貢献したとか、そういう都合のいいストーリーまで求めるわけだろ」

「社会に貢献しているとか、人間として当然とか、人間性を維持できるとか。社会的にも善く、道徳的にも善く、個人的にも善い。いいことずくめってことにしてる」

「都合のいい話にも程があるなぁ」

「実際は進歩の足を引っ張ってるし、システムに適応できない人を踏みつけ傷つけてるし、自分の経済的利益・安定以外はどうでもよくなってる。まぁ、これを社会的にも道徳的にも個人的にも「善」であるというならそれまでだけど」

「「善」なんじゃない?人間としては終わってるけど、賃金奴隷にとってそれは「善」なんだよ」

「人間にとって都合のいい話は、賃金奴隷にとって当然の話。人間にとって当然の話は、賃金奴隷にとって都合のいい話」

「単純に、毎日決められた時間に起きて決められた場所に行って長時間拘束されてやりたくもないことをやらされるって時点で嫌なんだけど、連中にとってこの「安定した生活」は天国での生活で、これに適応できない奴はワガママで甘えているらしいからね」

「現行制度に従ってさえいれば人間としてマジメに生きてることになるなんて、そんな都合のいい話があればいいけどね」

「今強制されている生活とその先にある「理想」が「人間らしい生活」だなんて、そんな都合のいい話があればいいけどね」


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「終わった関係」の始まりの終わり

「久しぶり」

「うん、久しぶり」

「待たせたかな?」

「いや、全然」

「うん、ごめん」

「いや、全然」

「元気だった?」

「うん、一応・・・・・・そっちは?」

「うん、一応・・・・・・」

「・・・・・・」

「何してたの?」

「え?」

「いや、ほら、最近・・・・・・」

「ああ、そっちか」

「そっち?」

「今何してたのってことかと」

「ああ、そっちじゃないね」

「微妙だよね、この感じ」

「微妙?」

「たまらないっていうか」

「何をしても、何を言っても、かみ合わない」

「そうそう・・・・・・って、かみ合った、アハハ」

「何もしなければしないでずれる一方なんだけど、何か言ったら言ったでもっとずれる」

「実際は最初からあったずれが露わになっただけだから、何をしようがしまいが同じなのにね。割り切ることができず、もがかずにはいられない、それがニンゲンってことかな」

「ねえ、なんとかならないかな?直せるところがあったら・・・・・・なんてね、ハハハ」

「お互い直感的に「終わり」とわかっているのだけど、いくつもの打算が働いて、そうやって繕おうとする。無理とわかっているくせに、それでも言葉や気迫で覆そうとする」

「無理ってことだけでなく、地獄泥沼ってこともわかってるよ」

「フフフ、直感を覆そうとする時点で、ねぇ」

「そもそもなんでこうなったんだろう?」

「「こうなる」とは?」

「そもそもの始まりから、今こうしていることまで」

「範囲が広すぎ、けど「終わった関係」には相応しい問いだね。なんせ、「終わった関係」は余すところなく無意識の打算に支配されているんだから。フフフ、終わっているのに続いている、なぜ?ねぇ、どこが好き?結婚は?あ~あ、世の中、こんなのばっかり。終わっているから、そういう意味や理由を求めるのに・・・・・・フフフ、つまり・・・」

「うん、そもそもの始まりから、始まる前から、関係は終わっている。自分や状況の中にもう既に意味や理由があるから・・・・・・夢とか将来の計画とか周囲の目とか、プライドとか焦りとか孤独とか、子供できちゃったとか・・・・・・ハハハ、自分の都合か、現実の重圧」

「世界にあるのは「自分」だけ、これじゃ関係なんて結べやしない。期待や達成感や安心感で互いに一瞬だけ誤魔化して、魔法が解けて直感が戻ってきたら、あれ?ってなって、続ける意味が残っていれば繕うし、ないなら、また・・・・・・今まさにこの真理に直面しているわけで、よ~~っくわかりましたって感じ?」

「自由恋愛バンザァイ」

「始まりから終わっている自由なゲーム、これってそんなに面白いものかな?」

「お互い傷ついたこともあったけど、その分成長もできたんじゃないかな。うん、いい関係だったよ、ありがとう。今日からお互い別の道を歩く、新しいスタートだ」

「傷ついて成長?ありがとう?新しいスタート?こんなバッカみたいなストーリーのゲーム、そんなに面白いものかな?」

「面白がる以外にないんじゃない?だって、「次に進む」しか許されてないんだから」

「自分の思い描いた未来にぐだぐだ縋って、堂々巡り。周りの目をいろいろ気にして、堂々巡り。相手を操作しようとごちゃごちゃ考えて、堂々巡り。自分を磨いて堂々巡り幸せになって堂々巡りどん底に落ちて堂々巡りまた始めて・・・・・・堂々巡り。後悔したら堂々巡り、「次に進む」も堂々巡り。これだけの堂々巡りが進んでいることになるなら、何も苦労しないよね」

「はぁ、君のそういう所を好きに・・・」

「君のそういう所を好きになったとか、どうかしているよ。そもそも「好きになった」?打算や重圧が「好きにさせた」?孤独が「そういう所を好きということにしようと囁いた」?」

「それでも、そう思いたいし、この関係にも意味があったと思いたい」

「この「関係」に意味があったとすれば、それは堂々巡りとわかってそれをやめることでもって成立する」

「ハハハ、けど、そうは言っても、こうする以外何をどうすればいいのかわからないし、たとえ堂々巡りだとしても・・・」

「懲りないね。虚栄、所有、性、孤独、重圧・・・・・・曖昧なおかげで「見誤る」ことが許される、「恋」や「愛」なんて純真無垢なラベルを貼ることさえ許される」

「まさに恋は盲目だね」

「意味、理由、美化、誤魔化し、正当化・・・・・・自分!自分!言葉!言葉!不正インチキ現実逃避ズル卑怯。ニンゲンの集大成だよ」

「それが基底にある関係なんて、始まる前から既に終わっている。わかってるよ、わかってるけど・・・」

「信じられない。一瞬満たされる、その代償は何?よくわかったはずじゃない、自分も、他人も、みんな道連れ。そんな「関係」に、愛、あるのかしら」

「それでも、愛していたと思いたい」

「「それでも」ってことは、結局は「自分」なんだね。「愛している」なんて平気で不正に手を染めて・・・・・・「愛」を愛とすり替えて・・・・・・ペテン師が・・・・・・許さないぞ」

「堂々巡りはわかってるよ、自分勝手なこともわかってるよ、けど、それでも、人間は許し合って生きる以外に・・・・・・考えを変える気はないの?」

「関係って、本当なら共に生きるってことなのに、人生の共有・・・・・・ではなく、独り占め、で、望むだけ望んで、その責任を背負う気なんてまるで無し、自分勝手なストーリーで正当化して逃げるだけ。こんなことが許されている「関係」って一体なに?こんな「関係」が世の中で奨励されてるのって・・・・・・これがニンゲンの原型だからに決まってるか。フフフ、絶対に許さない、これまで引きずり込まれた人間、これから引きずり込まれる人間、全ての人間の分まで、絶対に許さない」

「ごめん、この世界で孤独に堂々巡りなんて、耐えられそうもないんだ」

「独りぼっちの堂々巡りが唯一の解、「終わった関係」の始まりを終わらせるその先に・・・・・・」

これが大切な人たちのためにできる 私の精一杯なのである
存在しない誰かを「大切な人」だなんて それこそまさにインチキではないか!
とニンゲンは嘲るかもしれないが
孤独と不寛容が「唯一の解」だなんて それこそ愛とは無縁ではないか!
とニンゲンは嗤うかもしれないが
私にとっては これが括弧のない人間と人間の関係なのであり
結ぶに値する 守るに値する 唯一の関係なのである


{大人」の階段

その子は学校に毎日遅刻してくる
いつも、あと数分というところで、間に合わない
諸々の事情で他の人よりずっと遠くから通っているらしい
先生は言いました
それでも、遅刻は遅刻
学校の目の前に住んでいる子が笑った
この子よりも、遅刻する子の方が、早く起きてるはずなのに
それでも、遅刻は遅刻

先生はいつも言っていました
人の気持ちや立場を考えられるようになることが、大人になるということだ
先生は言いました
君はいつも遅刻ばかりして、ダメじゃないか
けれど先生は確かに「大人」なのだ
それは先生がその子のためを思って指導しているからではない

教室の仲間たちがわいわい話しているよ
遊び?恋愛?イジメの相談?一体何の話だろう
テレビの話をしている人がいる
ゲームの話をしている人がいる
他人の顔の話をしている人がいる
中学生や高校生になると、バイトの話をする人がいるかもしれないし
ちょっと悪ぶろうと、酒やタバコの話をする人もいるかもしれない
彼らも彼女らも、みんな確かに「大人」なのだ
それは「大人」の振る舞いを学んだからではなく
自分の趣味があるからでもなく
他人を上から批評しているからでもないし
カネを稼いでいるからでもなければ
酒を飲んでタバコを吸っているからでもない

引きこもって苦しんでいる不登校の人がいたとして
その人もきっと、十中八九は、「大人」に違いない
「大人」をどう定義しようが、「大人」にならなければならないいじょう
みんな「大人」なのだ、前倒しで「大人」なのだ
「前倒し」では語弊があるかな、現実には「大人」なんてどこにもいないのだから
「前倒し」を認める以外にないというか・・・・・・
ならば「大人」にならなければならない全員に認めるのが道理ではないか?

ここだよ、ここ、ここここ
「大人」にならなければならないって所さ
みんな「大人」になっちゃったから、きっともう忘れてる
「大人」になんてならないぞ!って、自分で自分に誓いを立てたはずなのに
うん、うん、忘れるのは仕方ないんだ、だって、そういう風にうまくできてるんだから
「大人」の階段が日常に溶け込んでくれているおかげで、いつの間にか忘れられる
自分で自分を裏切ることは、とてもつらいことで、心の傷になっちゃうからね
愛情?真心?慈悲?慈愛?「大人」にならないと、生きていくのがそれ以上につらいから
自分で自分を裏切ることも、正しいことになって、スーッとできて、スーッと忘れられる
愛情?真心?慈悲?慈愛?そういうカラクリ、ほ~よ~

わたしは今日も決められた時間に学校に行き、階段をのぼり、教室に向かう
教室が3階にあるから、毎日階段をのぼるんだ
「大人」の階段をのぼる、「大人」の階段をのぼる
のぼる、のぼる、のぼる、のぼる、のぼらされる?
わたしが 向かうべき 教室は3階にあるのだから、のぼる?のぼらされる?
もしもし、君は階段をのぼっていますか?のぼらされていますか?

のぼらされる?一体誰に?

ではどうして階段をのぼるのですか?

教室が3階にあるからさ!

おめでとう!君はもう立派な「大人」だ
「大人」とは、「なる」ものではなく「させられる」もの
「大人」とは誓いを忘れたもの
「大人」とはつまり この世界 の住人のこと

みなさんおはようございます!それでは出席をとりますので、名前を呼ばれた人たちは、手を上げて元気よくハイと返事をし、そのまま階段をのぼってきてください

○○!

ハイ!

××!

ハイ!

△△!

ハイ!






あ~ぁ、わたしの番だ


人生がつまらない

人生がつまらない と言いたくなるとき
人生がつまらない 身体の中心がギュッと押し潰されそうになるとき
人生がつまらない けど、文字通りに「人生がつまらない」と言いたいわけではない
人生がつまらない 伝えたいことは何?
人生がつまらない 伝えたいことがわからないのさ
人生がつまらない 一体どうすればいいの?
人生がつまらない わからないからこうやって斜に構えているのさ
人生がつまらない 結局どういうことなの?
人生がつまらない 「人生がつまらない」以外に表現する術がない
人生がつまらない 伝えたいことは何?
人生がつまらない 伝えたいことなんて無いのかもしれない
人生がつまらない 言わずにはいられないの?
人生がつまらない だって・・・・・・


人生がつまらない 預金通帳の数字が増えている こんなことのために・・・・・・
人生がつまらない 預金通帳の数字が減っている また生きるために・・・・・・

人生がつまらない
同じ道を歩いて駅に向かい 同じ道を歩いて家に帰る
あと何回繰り返せばいいのだろう?

人生がつまらない やるべきことは何もやりたくないけど
他に標もないから 明日もやるんだろうなぁ

人生がつまらない 期待外れ 期待外れ 期待外れ よ~し、また頑張るぞぅ?

人生がつまらない
この人嫌いだけど この人に嫌われたらここにいられなくなるから
我慢して好きなフリをするのだけど どうしてわたしはここにいなければならないの?

人生がつまらない 疲れた帰り道 コンビニに寄ったら
小銭を落として 舌打ちされた

人生がつまらない 音楽を聴きながら歩いていると
イヤホンが腕に引っかかって ポーンッと外れた 少し痛い

人生がつまらない 予定がないのはつらいけど 予定があってもつらいんだ

人生がつまらない 独りでいるのは悲しいけど 誰かといるのも悲しいんだ

人生がつまらない どこにも行きたくないけど ここにもいたくない

人生がつまらない
勉強ができるようになって だから何?
仕事ができるようになって だから何?
お人形さんみたいにニコニコした ヒト ヒト ヒト に褒められて
だから何?

人生がつまらない ちょっと気に入っていたモノが壊れた また買えばいっかぁ?

人生がつまらない 何も考えたくないから 何とはなしにテレビの電源をつける
CMの音がやかましい 狂人共の馬鹿笑いがやかましい 静寂がやかましい

人生がつまらない わたしはひとつ あなたはたくさん

人生がつまらない 人で溢れたショッピングモール 誰もいないショッピングモール

人生がつまらない 眠いけど 寝たくない 明日がもうそこにいる
人生がつまらない 眠くないけど 早く寝たい 明日がもうここにいる

人生がつまらない
良い思い出には醜いわたしが顔を出す
悪い思い出には惨めなわたしが顔を出す

人生がつまらない 食欲があるのに 腹が減らない
人生がつまらない 食欲がないのに 腹が減る

人生がつまらない とっくに終わっているのに なぜかまだ続く

人生がつまらない 好き?嫌い?/好き?嫌い? あっはっは/あっはっは

人生がつまらない 垂直に昇る 後 真っ逆さま

人生がつまらない みんな笑っている わたしも笑っている

人生がつまらない
「考え方だよ!考え方!考え方を変えれば、何でも面白くなるんだよ!行動だよ!行動!行動しているうちに、何でも面白くなるんだよ!」
心が砕ける音がきこえた


偉大なる進歩に、乾杯

パーティー会場にはたくさんの人が集まっている。老若男女種々様々な「労働者」たち、そして・・・・・・。盛大な拍手に迎えられ、男が一人入場。どうやら彼が本日の主役らしい。彼は舞台中央に進み出て、「代表者」と固い握手を交わす。「代表者」は満面の笑み、彼は無表情。拍手がやみ、会場が静寂に包まれ、「代表者」の挨拶が始まる。

代表者「みなさん、我々は、全人類は、苦難と野蛮の時代を生きていました。いわれなき差別と迫害を受ける少数者の存在を無視し、蔑ろにし、時には陰に陽に暴力に加担してきたのです。少しの努力と少しの寛容で、同じ仲間になることができるのに・・・・・・我々は考えることをやめてしまった。彼ら彼女らの表面しか・・・・・・いや、表面さえみようともせず、一方的に決めつけ、多くの人生、可能性を、奪ってしまったのであります」

罪悪感のせいか、会場からはすすり泣きの音が聞こえてくる。

代表者「しかし!我々は!変わることができる!歩み寄ることができる!分かり合うことができる!そしてなにより・・・・・・なにより!一緒に働くことができる!!みなさん、我々は大いなる試練を乗り越えたのであります!野蛮を克服したのであります!さあ、この記念すべき日を祝おうではありませんか!我々はもう無駄な血を流すことはない・・・・・・共に生きましょう、同じ「労働者」として・・・・・・。偉大なる進歩、先天性無業者支援法の成立に、乾杯」

会場は拍手と歓声に包まれる。みんな笑顔で手を叩き、中には感極まって泣き崩れる者もいる。しかし、当の本人すなわち「先天性無業者」の彼だけは、歓喜する人々を冷ややかな目で眺めていた。

解説を生業とする者「「先天性無業者」とは、生きるためにお仕事をさせていただく、この人間的精神を著しく欠いた「障害者」の総称であります。つまり生まれながらに労働に向いていない者たちであります。一応「生まれながら」ということになってはおりますが、実際の所はまだよくわかっておらず、就職後に「障害」が見つかるケースもあります。一度「先天性無業者」と診断されてしまえば容赦のない差別や諸々のハラスメントが付いて回り、そのせいで多くの「先天性無業者」が自殺あるいは差別に起因する病による死に至ったのであります。が、先天性無業者支援法が成立したいじょう、それはもう過去の話。我々は困難を乗り越えたのであります。彼ら専用の就労支援、職場定着をサポートする専用の支援・相談機関、彼らを雇う会社には一人毎に月100万円の補助金が支給される。これで彼らも我々「労働者」の仲間になったのであります」

「先天性無業者」の彼がシャンパンの入ったグラスをクルクル揺らしながら、フッと笑うと、会場に緊張が走る。

彼「そうかそうか、オレも、働いてお給料をいただく、そんな普通の生活が送れるようになるってわけかい・・・・・・フフフ・・・・・・ありがたいね。ところで、オレがそうさせていただくためのカネはどこからくるんだい?税金かな?」

労働組合員「わはははは、君は我々「労働者」の仲間になるんだから、これからはそんなこと気にしなくてもいいんだよ。しかし、あえて言うなら、そのカネは君の仕事から生まれる、と言えるのではないかな」

彼「「オレの仕事」からカネが生まれるなら、これまでのオレたちに対する扱いは何だったんですかね?カネが生まれるのに、わざわざ差別してたってこと?それで、どうして今更その差別をやめよう、支援しよう、なんて話になったんですかね?」

上級労働者「まあまあ、今日は記念すべき日なんだから・・・」

彼「あなた方の高給と福利厚生のカネは、どこから?非正規の給料ピンハネ?下請けイジメ?税金補助金?価格上乗せ?売り上げ?その売り上げの源は・・・・・・ああ、申し訳ない、オレはあなた方と違って無能なのでもう忘れちゃってましたよ、いけないいけない、「シゴト」でしたね、うん、「シゴトからカネが生まれる」んだった」

支援者「やめなさい!あなたは我々「労働者」の仲間になるのですから、いつまでもそういう妄想に囚われてちゃいけない、ね?我々はあなた方も働きやすい職場を作れるよう精一杯努力しますから、あなたも・・・」

彼「ええ、もちろんオレも精一杯努力させていただきますよ。なんせ、今の世の中下らない仕事は全て機械がやってくれるので、人間はそういった創造的なおシゴトに専念すべきですからな。ハハハ、シゴトのためのシゴト、無駄なおシゴト・・・」

人々は絶叫して彼の発言を遮る。

ム ダ ナ シ ゴ ト ナ ン テ ナ イ ! ! !

代表者は慌ててみんなに向かい問いかける。

代表者「労働の本質的要件とは何か!?」

労働の本質的要件とは、賃金でありますっ!!

人々はさっきまで談笑していた者たちと手を繋いで小さな輪をつくり、グルグル回転しはじめる。いくつもの雇用の銀河が誕生し、会場は大宇宙へと変貌を遂げ、その中心にはいつの間にか「賃金」が鎮座している。彼は彼を「支援」する関係者たちに取り囲まれた。ここに新たな雇用の銀河が誕生し、みんなで賃金の恩恵を受けるのである。人々はその「力」に従って回転しながら移動し、「権利!」「誇り!」「安心!」「安全!」「生きがい!」「承認!」「義務!」と口々に唱えている。すると、中心に鎮座していた「賃金」が光り輝く太陽へと変わり、賃金エネルギーが人々を優しく包み込む。人々は手を放し、再び手を繋ぎ、手を放し、また手を繋ぎ・・・・・・やがて無数の小さな輪は巨大な一つの輪へと姿を変えていく。

これぞまさに大団円!大宇宙の法則ここに顕現せり!

賃金エネルギーを吸収した人々は「賃金!」と高唱すると、スーツを纏い聖なる星戦士へと変身を遂げ、互いが互いの手を握る力を強めた。

お前を絶対逃がさない、だから私も逃がさないで。

大宇宙との合一を達成した人々は恍惚し没我しその回転速度を上げるが、目からはなぜか涙が溢れている。

解説を生業とする者「つまり、これが生きるということなのである」

しかしそんな中、彼だけが輪の外でキョトンとしており、思わず口を挟んでしまう。

「泣くぐらいなら、ベーシックインカムでいいじゃないですか」

人々の動きがピタリと止まったかと思うと、次の瞬間には絶叫が大宇宙を鳴動させていた。

イイイイイヤアアアアア!!!

人々がバラバラになり大宇宙は混乱に陥る。理性を失った群衆はブヒイイイイイ!!と雄叫びを上げながら、必死の形相で駆け出した。雇用のイス争奪戦が始まったのだ。何とか自分の生存を確保しようと、人々は身体をぶつけ合い、押し合い、殴り合い、踏みつけ合い・・・・・・イスはすぐ埋まってしまった。イスから引っぺがされた者が大宇宙の壁に衝突すると、ベリッという音と共に暗幕が裂け、あれよあれよという間に「大宇宙」が崩壊し、労働市場が姿を現す。化けの皮!が、時すでに遅し。イスを確保できなかった者たちはアパ・・・・・・アパ・・・・・・アパパパパパと泡を吹いて痙攣しそのまま息を引き取り、精根尽き果てた者たちはブヒィと一声弱弱しく泣くとイスの上でピクリとも動かなくなり(すぐにどかされイスには喜んで別の者が座った)、「未来」を悟った者たちは次々と首を吊っていった。しかしここで彼が混乱に乗じて太陽たる「賃金」に近づき、あろうことかそれを爆発させてしまう。

代表者「こ、こ、この世の終わりだー!!」

ア~~~~~レ~~~~~!

・・・・・・太陽の爆発から大量のカネが発生し、人々に遍く降り注いだ。ポカンとする人々が会場の外に目を向けてみると、この混乱などまるで無かったかのように、機械が淡々とモノを生産している。

代表者「こ、こうなることは最初からわかりきっていた!みなさん、我々は大いなる試練を乗り越えたのであります!野蛮を克服したのであります!さあ、この記念すべき日を祝おうではありませんか!我々はもう無駄な血を流すことはない・・・・・・共に生きましょう、同じ人間として・・・・・・。偉大なる進歩、ベーシックインカムの成立に、乾杯」

会場は拍手と歓声に包まれる。みんな笑顔で手を叩き、中には感極まって泣き崩れる者もいる。しかし、彼だけは、歓喜する人々を冷ややかな目で眺めていた。


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読みたい本が山積みなのでニートしてます。

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