どうして「働きたい」の?

「働きたくない」

「またそういうこと言ってる。連中に聞かれたら怠け者がいるって問題になるぜ」

「気に入らないな」

「うん」

「じゃあ、あんたらはどうして「働きたい」の?」

「将来?キャリア?突き詰めれば「カネ」?」

「社会貢献だの成長だの、それらしい理由はいくらでも並べられるさ。なんせ、みんなが労働の正しさを保証してくれてるんだからね。けど、善いと保証してもらったからといって、それが実際に善いことだとは限らない」

「労働とは何か?それは他人や社会の必要を満たすこと、よりうまく確実に満たせるようにしていくことだろう。より少ない人数でよりよいモノ・サービスをより多く生産・提供できるようにすること。こうした進歩・豊かさを目指しているはずだが」

「働いてカネを稼がないと生きていけないシステムの下でね」

「ベクトルが真逆」

「結果、それが実際に必要かどうか、役に立つかどうか、人間を豊かにするかどうかより、そうであると信じ込ませることの方が重要になっている。シゴトを創り、雇用のイスを確保する、そのためのコミュニケーション能力が重要になっている」

「人間を賃金奴隷に変える仕組み、その下で創出される無駄なシゴト、一見必要で役立っているようで実は奴隷の生活や再生産に必要で役立っているだけのモノやサービス」

「まあ、「働きたい」理由がカネだと言うなら正直だよ。反社会的活動によってカネを稼ぐ、シゴトにはそれ以上の意味なんて無いんだからね」

「カネ以外だと「ニート・無職になりたくない」が一番だろう」

「バカにして見下し、「寄生虫」だの「無能」だの「生きる価値が無い」だの好き放題烙印を押してきたんだからね」

「そりゃ「働かなくなったら自尊心が~社会的評価が~」と怖れるようにもなる」

「社会人様は労働を何だと思ってるのだろうね。自己中心的な意味は次々と付与するわ、マウンティングの道具にするわ、他人や社会の必要なんて眼中に無いわ」

「研究者や芸術家やイノベーターは他人の必要なんて考えないもんね!なんてね」

「今話しているのは「研究者」でも「芸術家」でも「イノベーター」でもなく他ならぬ「あなた」の日々の行いについてなんだがな」

「死と将来への不安、世間様に見捨てられる恐怖、これでもうどこからともなく「働きたい」気持ちが湧いてくる」

「だから仕方ない、と?」

「ああ、連中はきっと逃げるね。今もロボットに仕事を「奪われた」人たちのケアが必要なんて言ってやがる」

「あんたらとあんたらが奉仕するシステムに人生も尊厳も「奪われた」人たちのケアが必要と一度でも考えたことがあるかい」

「偉そうにニート・無職に「ワガママ言うな!」とか言うくせに、自分たちのワガママは全部許されると・・・・・・いや、そもそもそれを「ワガママ」と認識さえしていない」

「連中の「ワガママ」でどれだけの人が苦しみ、死んでいるのか」

「ブラック企業・経営者批判に自立・就労支援という名の同化政策・・・・・・まだ続けようとしてらぁ」

「諸々の事情があったんだってさ。カネを稼がないと生きていけない、それが現実なんだから仕方ないじゃないか!」

「けど今はどう?他人を蹴落とし、限られたイスを確保し、余っているモノやサービスのために互いが互いに不毛な命の削り合いを強いる。そんな「現実」にすっかり取り込まれ、ニートや無職が惨めに死んでいくのは仕方ないと思っているんだろ?」

「それは当たり前じゃないか!あいつらは努力しなかったから!能力がないんだから!それが資本主義ってもんだ!・・・・・・ふふふ、すっかり板についてしまったようで」

「ニート・無職や低賃金労働者の方まで連中の狂気で精神をやられちまってる」

「だから感謝の言葉が効果を発揮する」

「苦しくても我慢して働いてくれてる人がいるから、社会が回っているのです!あなたの労働が誰かを支え、誰かの労働があなたを支える。つまり互いが互いに「生かされている」のであります!頑張ってくれてる人に感謝!・・・・・・苦しいからこそ、上級奴隷様が垂れ流す陳腐な綺麗事を綺麗なまま受け取ってしまう」

「しかし騙す意図などなく、本心から感謝している」

「「騙す意図などなく、本心から感謝している」ことが問題なのだが」

「感謝する連中はその人たちに何をしている?」

「それが真実だ」

「人間は生まれながらに価値がある、そう言う連中が他人に何を強いている?」

「それが真実だ」

「連中にとっては、所詮、「その程度の存在」ってことだよ」

「「生かされている」という意識、それは心理的負債。生産に貢献しているものの大部分は自然や過去の積み重ねであるにもかかわらず、現役労働者に対する幻想の負債を背負わせ、それを労働=苦労によって償わせる。綺麗事を並べて「現実」に取り込み、負債を背負う存在であると同時に他人から取り立てる存在たらしめる」

「何の疑いもなくそれができてしまうことこそ最大の罪」

「これだけやっても、連中はきっと逃げるね。今も、価値観の転換が必要だとか、そのための議論が必要だとか」

「そんなもん必要ない。要は、罪を認めるかどうかなんだから。社会を支えていたのではなく、社会をクソな現状に縛り付けていただけだった。善意でやったなんて関係ない、それは反社会的活動でしかなかった、苦しみを増やしただけだった。認められたら、一瞬で全てが変わるのに」

「連中はきっと逃げるね」

「誰かを傷つけても」

「連中はきっと逃げるね」

「社会を破壊しても」

「連中はきっと逃げるね」

「誰かを殺しても」

「連中はきっと逃げるね」

「「連中」とは何か?」

「「連中」とは「あなた」だよ」

「ということは」

「あなたはきっと逃げるね」

「「システム」とは何か?」

「「システム」とは「あなた」だよ」

「だから」
「だから」

「あなたは「働きたい」のさ」


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獄卒殿の面接

「次、平社員63106!入りなさい」

「はい!失礼します!」

「座りなさい」

「はい!ありがとうございます!」

「ふむふむ。

私は人間関係がうまくいかず、現実から逃げて家に引きこもってきました。うまくいかないのを相手のせいにし、一方的に恨み、毎日無為に過ごしてきたのです。その当然の結果として、私は何の成長もできず、社会に迷惑をかけるだけの存在となり果てました。しかし、ここ「天国」に入って全てが変わったのです。日々の厳しい労働、なにより獄卒の方々による愛に溢れたご指導のおかげで、私は人間としてあるべき姿を学び、社会の中に自分を位置づけることができるようになりました。人間として大きく成長した今だからこそ、外の世界で見分を広げ、さらなる飛躍を志向すべきと考え、仮釈放を申請させていただきました。

なるほどね、平社員63106、君の文章で間違いないかね?」

「はい!獄卒殿!それは私の書いた文章であります!」

「ハイ、そうですか」

「・・・・・・えっと、あの、何かないのですか?」

「平社員63106、ここは「仮釈放審査会」だ。君が、仮釈放の権利に値する人間か、判断するための機会、だ。わかるかい?」

「はあ、まあ、はい」

「君がポエムを披露する文学サークルの集まりではない、と言っているのだが?」

「えっと、あの、どういうことでしょうか?」

「君はここにきて何年だね?」

「3年であります。しかし、「天国」における1年は外の世界の10年に相当すると・・・」

「ほう、君はそんな「最高の成長の場」を出たいと言うのかね?」

「い、いえ、私はさらなる成長を求めて・・・」

「確かに君の成長はこちらでも評価しているよ。なんせ、最初はどうしようもなかったからね。獄卒の言うことは聞かないし、ここを「地獄」呼ばわりしたこともある。そんな状態からよくここまできたと思うよ」

「ありがとうございます!それも獄卒の方々の・・・」

「申請を取り下げるつもりはないのかね?」

「え、あ、はい、ありませんが・・・」

「残念だ、本当に残念だよ。実はね、君の仲間たちから、君には協調性が欠けているという報告がね、具体的事例と共に上がってきているんだ」

「え・・・・・・う、嘘だ!だ、誰がそんなことを!?私は精一杯協力していますし、仲間も私の働きぶりは認めているはずですよ!」

「仲間の客観的な評価より、君自身の主観的な自己評価を重んじる、と?」

「いや、ですから、私は精一杯協力・・・」

「そうか、ということはつまり、仲間の誰かが君を陥れようと嘘の報告をした、君はそう言いたいわけだね?」

「言いたいもなにも・・・」

「仲間のせいにするわけだ。君のことを思い、痛む心を押さえつけてまで君の欠点を報告してくれた仲間のせいに」

「獄卒殿!獄卒殿!ちょっと、ちょっと待って・・・・・・いや、いや、取り乱して申し訳ございません、仲間は悪くありません。悪いのは私であります、協調性に欠ける私であります!」

「素直に自分の非を認め、自己責任に帰したことは評価しよう。しかし、だ。そうなると君が書いた「人間として大きく成長した」、これは一体どういう意味になるのだろうか?仮釈放を申請するぐらいだから、もちろん「大きく成長した」の中には協調性を完璧に身に付けたことも含まれるはずだが?だろう?そうじゃないとまた「社会に迷惑をかけるだけ」で、外に出ても「さらなる飛躍」など到底期待できないのだから」

「た、確かに私にはまだまだ至らぬ点が多々ありますが・・・」

「それが本当なら、君は仮釈放の権利に値しない。違うかね?」

「違いませんがしかし・・・」

「平社員63106!!君は本当にそう思って発言しているのか!?え?「悪いと素直に認めておけば簡単に評価を高めることができるぜ」、違うか!?おい、甘ったれるのもいい加減にしろ。まったく、君の根本は何も変わっていないようだな。いいか、君の言うことが本当なら、このような面接などそもそも行われないんだ、そうだろう?「権利を持つに値しない」人間がその自覚も持っているのだから、権利を求めて申請などするはずがない。しかし、君はこうしてここにいる。これを踏まえたうえで答えろ。「協調性に欠ける私」「至らぬ点が多々ある」、これは一体なんだ?口では自分の非を認めながら今もこうして粘っている、これは一体どういうことだ?」

「獄卒殿!私はなんとか人さまのお役に立てるようになりたくて・・・」

「平社員63106、これは大問題だぞ!!君は仮釈放の権利欲しさに我々の評価を高めようと、実際には思ってもいないことを堂々と口にしたんだ!つまり、君は獄卒に嘘を吐いた・・・・・・わかっているのか、おい?」

「そ、そんな・・・」

「まだ何か言いたいことはあるか?」

「えっと、あの・・・」

「あるのか!?はぁ~、とんでもない奴だ、信じられないね。君は嘘がばれたにも関わらず、こうして弁解しようとしている。私を別の嘘で丸め込めると思っているんだよ。「こいつはバカだから簡単に騙せるぜ」?そうやって他人を心底見下しているからこそ、平気でこんなマネができると思うのだが?」

「獄卒殿を見下すだなんて、そんなこと決してございません!ありえません!」

「じゃあばれると分かって嘘を吐いたのか?」

「え、えっと・・・」

「私を見下していたのかね?」

「ありえません!そもそも獄卒殿に嘘を吐くつもりなど・・・」

「意図がなかった?なら余計悪いな。平社員63106、君はかなり重症らしい。無意識のうちに息をする如く、本心とは違うことを言ってしまうとはね。はぁ~、悲しいことだよ。最初に比べれば君は大いに成長した、その評価さえ根底から覆さねばならない、ひどい裏切りだ。この3年は一体何だったのだろう?」

「うっ・・・・・・うっ・・・・・・獄卒殿!申し訳ございませんでした!私にはまだまだ「天国」での労働が足りません!」

「呆れたね。嘘!嘘!嘘!嘘!君は嘘ばかりじゃないか!重ねに重ねた嘘がばれたにも関わらず、懲りずにまた泣き真似をして、「労働」が足りない?」

「・・・・・・重労働が・・・・・・足りません」

「こっちとしてもね、君を信用したいのは山々なんだよ。成長した君がさらなる飛躍をとげるためにも、仮釈放の権利を勝ち取ってもらいたい、心からそう思っているんだ。しかし、だね、こう何度も嘘を吐かれると、ねぇ?」

「私には重労働が足りません!厳しい重労働と切迫した生活をお与えください!」

「ふむ、君が生まれ変わるために精神を根本から鍛えなおさねばならないことを考えると、少なくとも5年は必要だと思うのだが?」

「いいえ!私のような人間が社会に役立つ存在に生まれ変わるためにも無期限でおねがいします!」

「平社員63106、その気持ちを忘れるな」

「はい!」

「ところで、君はなぜ平社員63106なんだい?なぜここに連れてこられた?なぜこうしてペコペコしている?なぜあっさり納得した?不当だとは思わないのかね?」

「・・・・・・え?」

「私はなぜ獄卒であり、何を以て獄卒であるのか?「仮釈放の権利」なるものを巡って行われたこの面接は何なのか?そもそも「仮釈放の権利」とは何なのか?」

「獄卒殿、おっしゃっていることの意味が・・・・・・それらは「ここの決まり」としか・・・」

「君、いや、君たちに「生まれ変わって」もらいたい、心からそう思っているということさ」

さぁ、人生を賛美しよう!

「毎日がつらすぎる。心配・不安・焦燥・屈辱、人生に底流する苦しみに耐えるだけの報われない日々。勉強恋愛労働コミュニケーション、向いてないしやりたくもないのに、うまくできない人には「罰」が待っていて、それを「自分で選んだ道」「自己責任」で我慢させられることもわかっている。もう死にたい・・・・・・よし、140字ジャスト!これで投稿っと」

「おい、ニート!twitterでネガティブな発言ばかり繰り返すばかりで社会に貢献しようともしない!最低の存在だな!」

「うふふ、ただひたすら人生に対してネガティブな発言を繰り返す人間、「人生」に相応しい登場人物だとは思わないかい?」

「はあ?人生と真剣に向き合え!周りの奴らが結婚したなんて情報は嫌でも回ってくるだろ?子供と一緒に写った満面の笑みの写真とかみて何とも思わない?置いていかれて悔しいだろ?」

「君は真剣に向き合っているのかい?」

「お前は人生から逃げ続けた結果、負け組になるんだよ!」

「私が負け組になるって?そりゃいいや!これぞ!まさに!「人生」!私はきちんと「人生」に相応しい人生を送ることができているってわけだ」

「なんなんだよ、お前には人生を楽しみたいって気持ちはないの?」

「人生を!楽しむ!ありえない言葉の組み合わせ。なぜって?それは人生が「人生」だからさ!」

「そうやって意味のわからないことをほざいてろよ。お前はニート状態から抜け出せないまま、無様に死んでいくんだ」

「それは素晴らしい!これぞ!まさに!「人生」!」

「想像してみろ!お前は惨めに孤独死するんだ!どうだ、嫌だろう?」

「孤独に孤独死首つり自殺
 惨めに無様に野垂れ死に
 モテない独身キモオタニート
 ずのー労働精神崩壊
 狂って確保だアイデンティティ
 童貞喪女は飛び降りホイホイ

う~ん、どれもこれもまさに「人生」!わっはっは、奴隷として生まれ、奴隷として死んでいく。人類皆平等」

「おい、いい加減にしろよ。オレたちは楽しむために生きているんだ!そんなこともわからないのか?」

「楽しむためだって?あぁ~あ、つらいつらい。そんなん、こっちまで苦しくなっちゃうよ。生きるためには楽しまないといけないなんて・・・・・・ただでさえ苦しいのにさ」

「違う!楽しむために!生きているの!」

「なんにせよ、「目的」は地獄の炎。さすがの私でもそこまでハードにしようとは思わないんだなぁ」

「目的が無い人生なんて何の意味もないじゃないか!」

「それの何がそんなに嫌なの?」

「お前さっきから意味わかんないよ!楽しみたいとか、幸せになりたいとか、そういうのないのかよ!」

「じゃあ教えておくれ、「幸せ」ってやつはどこにあるんだい?」

「結婚して子供がうまれて、家族のために働いて、みんなで仲良く暮らすとかさ、そういうのが幸せってやつだろ?あぁ、うぁ、うぁ、あぁ~、もうやめてくれよ!なんでこんなこと言葉にしなきゃいけないんだ!」

「今まさに、我々という種が存続してきた秘密に触れたわけだね」

「秘密?」

「秘密は秘密だから秘密のままにしとかなきゃいけない。けど君はもう気づいているだろう?」

「気づきたくないね!」

「じゃあ教えちゃう。虚に実を結べるようになったこと。つまり、気狂いになったってことさ!」

「わかった、もうやめよう、な?そうしないと生きていけないんだから、人類が続いていかないんだから、いちいちそうやって言葉にするのはやめよう」

「気狂いにならないと人類が続かないから気狂いになるのはやむを得ないのでありしたがって気狂いになったことにはならないって?それこそ気狂い沙汰だ!」

「そんなことは言ってない!そうやってみんなを気狂いってことにしたって、何にもならないじゃないかってことさ!」

「みんな気狂いってことになってしまうから気狂いじゃないって?気狂いの気狂いによる気狂いのための理屈だね!」

「気狂いはお前だ!」

「私が気狂い?わっはっは、何をいまさら!これぞ!まさに!「人生」!本日も大規模な気狂い選別作業が絶賛進行中なのであります!」

ポッポー!と薄明に汽笛が鳴り響く。行き先は「人生」!とのアナウンス。シュッポッ、シュッポッ、シュッポッポッ!登場人物たちは汽車の真似をしながら「人生」に向かってノロノロと進んでいく。ある者はひょいひょいと、ある者はしぶしぶと。いつの間にか汽車と一緒にアリさんたちが行列を成し、イチ、ニ、イチ、ニと行進している。

「本日も我々が選別を担当させていただくのであります!」

そう言ってアリさんたちが向かう先には、無数の輪郭が自由を謳歌し蠢いている。腕立て腹筋背筋お勉強、一心不乱に己の肉体と知能を鍛えている者たちがいる。疲れ果ててぐったりしている者たちがいる。

「これが人生!適応!不適応!適応!不適応!」

アリさんたちはぐったりしている者たちや、インチキをしている者たちを的確に見分け、どこか遠くに連れていく。残った者の中には鍛えた肉体と知能を活かし夢中で穴を掘っている者たちがいる、ついていけずに呆然とするばかりの者たちがいる。

「これが人生!適応!不適応!適応!不適応!」

アリさんたちは呆然とするばかりの者たちや、インチキをしている者たちを的確に見分け、どこか遠くに連れていく。残った者の中には「我々は成し遂げたのだー!」と叫び勝利の踊りを一糸乱れず踊る者たちがいる、何も見出すことができずに途方に暮れる者たちがいる。

「これが人生!適応!不適応!適応!不適応!」

おめでとう、人類!こうして強靭な肉体と精神を兼ね備えた真の強者が選別されより良い未来を創っていくのだ!

選別を終えたアリさんたちは音もなくどこかへ消えてしまった。後には真の強者たちが残されている。

「もしも~し、あのぅ・・・」

「バカやめろ!真の強者に話しかけてはいけない、ここではそういう決まりじゃないか!」

「君は随分慣れてしまっているようだね」

「え?」

「あのぅ、そこで一体何をされているのですか?」

「・・・・・・」

「う~む、何も反応が無い。これはどういうことだろう?」

「・・・・・・」

「おや、君まで・・・・・・なるほど!強者に口無し!それが真剣に向き合う者が辿り着く答えなのかね?」

「・・・・・・」

「どうやら君は慣れ過ぎてしまったようだね。ん、慣れ過ぎた?それはつまり適応!ふむふむ、適応に成功した真の強者の姿から真剣に向き合う人生がいかなるものかを推し量ることができるぞ。「人生」を拒絶し続けるゲーム、業火に油を注ぎ続ける我慢比べ、本当につらく苦しいことだが、しかしこれぞ!まさに!「人生」!はっはっは、さぁ、人生を賛美しよう!」


まぁ、そんなもんだよね

むかしむかしあるところに、働き者たちの国がありました。大人は朝から晩まで働いておカネを稼ぎ、子供は働き者になるために学校で勤勉の精神と協調性を学び、みんな幸せに暮らしていました。一生懸命働けば働くほど貰えるおカネは増え、生活も社会も良くなり、みんながもっと幸せになれる、人々はそんな希望を持って生きていたのです。

しかし、少しずつ、確実に、国は不安に包まれていきました。一生懸命働いても生活が良くなるどころか、どんどんどんどん苦しくなる一方になってしまったからです。頑張りが報われないことはそれまでもありましたが、みんなが我慢してもっと頑張ることで困難は乗り越えられ、頑張りが報われる日々が帰ってくるのでした。今回は違います。何年も、何十年も、みんなで我慢して頑張り続けているにもかかわらず、生活は苦しくなるばかりなのでした。働き者のご先祖様たちのおかげでたくさん進歩したはずなのに・・・・・・一体この国に何が起こっているのでしょう?

みんなが頑張っているのに、生活が良くならないなんてありえない!一生懸命働けば働くほど生活が良くなる、これは常識や自然法則として働き者たちの無意識の底に刻み込まれていたのです。みんなが漠然と抱いていた疑念は確信に変わっていきました。

犯人は無職に違いない!

確かに、この災厄が始まって以来、無職が増加していました。客観的なデータこそが動かぬ証拠。頑張っても報われなかったのは、単純に頑張りが足りなかったからなのです!無職が働かず、隠れてみんなの足を引っ張るせいで、災厄が続いているのです!働き者たちは無職を働かせようと様々な手を尽くしましたが、無職は仕事を選り好みするばかりで一向に働こうとしません。そればかりか「どこも雇ってくれない」「仕事が無い」などとあからさまな嘘の言い訳を並べ立てるのです。善良な働き者たちもさすがに呆れ果て、話し合いの末、みせしめとして無職を一人公開処刑することに決めました。

捕らえられた無職は牢屋の中で何度も反省の言葉を口にしました。根性が無いせいで仕事が長続きしなかったこと、なにかとバカにされるのが嫌で仕事を放り出して逃げてしまったこと、受験も最後まで頑張れなかったこと、これまでの人生の全てを後悔し、否定し、せめて死ぬ前に心だけでも入れ替えたい、是非働き者のみなさんの前で懺悔させていただきたいと涙ながらに訴えました。これには偉い人たちも心を動かされ、処刑の前に謝罪する時間を特別に設ける運びとなりました。

無職が死ぬ前に懺悔する。噂はたちまち国中に広まりました。大災厄を招いた巨悪=無職が自分たちに謝罪する、当たり前じゃねーか!今更反省したって遅いが、まあ最後の言葉ぐらい聞いてやるか!娯楽に飢えた働き者たちは無職の公開処刑を心待ちにしていました。

処刑当日。大群衆が詰めかけた処刑場に、無職が連行されてきました。人々のざわめきは、無職の姿をみた途端歓声に変わりました。無職は反省・後悔の念と国を衰退させた罪悪感に押しつぶされ、今にも死にそうなほどやつれ果てていたのです。反省の言葉への人々の期待はますます高まるのでした。

「み、みなさんは・・・・・・み、みなさんは・・・・・・」

無職は喋り始めると同時に泣き始めてしまいました。罪悪感が極まったのでしょうか、死ぬのが怖くなったのでしょうか。反省の言葉を期待していた人々はヤジを飛ばしました。

「泣いてないで早く喋れ!」
「お前が全部悪いんだぞ!」
「この疫病神!」

変化は一瞬のうちに起こりました。後悔と反省と罪悪感に満ちた無職の振る舞い、それは確かに本物であり、演技の要素は一つもありませんでした。何がきっかけとなったか、それは本人にも、いや、きっと仏さまにもわからないのでしょう。無職はこの瞬間に全てを悟り、境地に達してしまったのです。無職は穏やかな、しかし見方によっては皮肉ともとれそうな笑みを浮かべ、フッと鼻で息を吐くと呟くように言いました。

「まぁ、そんなもんだよね」

無職はポカンとする人々をぐるりと眺め回すと、わっはっはっはと大笑いし、こう言い放ちました。

「無職が全部悪い!みなさんは、まぁ、そんなもんだよね。意味、わかる?」

処刑は速やかに執行されました。

次の日にはもう「まぁ、そんなもんだよね」が流行していました。

「勉強しないで遊んでると無職になっちまうよ!」
「だったら勉強の仕方を教えてよ!どの参考書がいいか一緒に考えてよ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで手を動かせ!大人は仕事で忙しいんだ!」
「お父さんも、お母さんも、まぁ、そんなもんだよね」

「犯罪以外にも何か道があったはずだろう?」
「飢えて死ぬ寸前だったんですよ」
「まじめに働いていればそうはならなかっただろう?」
「正義の味方さんも、まぁ、そんなもんだよね」

「家出して男の家を転々と・・・・・・君は何を考えてるの?」
「だって働いて自立しろってしつこいから」
「いやね、真っ当な職に就いて真っ当な人生を歩むのが自立・・・」
「弱者の支援者さんも、まぁ、そんなもんだよね」
「そう言わないで。ちゃんと社会経験を積めば、今からでもやりなおせ・・・」
「まぁ、そんなもんだよね」

公開処刑の効果か無職は減りましたが、生活はますます苦しくなったので、「働けば働くほど生活が良くなる」という無意識の常識・自然法則は、いつの間にか「高度に発達した社会はみんなが働くことで何とか維持されている=頑張るのをやめたらもっと悪くなる」に変わっていました。働き者たちは途方に暮れ、今度は危険思想の蔓延を危惧するようになりました。「まぁ、そんなもんだよね」によって若者を中心に精神的堕落が進み、また無職が増加するという予測が発表されたのです。働き者たちは「まぁ、そんなもんだよね」対策に集中することにしました。まずは「まぁ、そんなもんだよね」を撲滅し無職の増加を防ぐ必要がある、と正当化されました。これによって働き者たちは自分たちを働き者たらしめている「システム」に触れずに済みましたが、その代償として今もまだ災厄に苦しんでいるようです。

「まぁ、そんなもんだよね」


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