ニート・メアリーの日常

「いいですかメアリーさん、就職活動ではまず「軸」を決めなければいけませんよ」

「「軸」・・・ですか?」

「そう、「軸」です」

「あのぅ、「軸」というのは・・・」

「メアリーさん、「軸」を決めたら次は「つよみ」ですよ。会社の方にあなたという人間を知ってもらうためにも、「つよみ」をしっかり伝えなければいけませんからね」

「「つよみ」・・・」

「そうです。メアリーさんは遠い異国の地から我が国にやってきているわけで、その積極性は十分「つよみ」になりますよ。それに、メアリーさんは所属する研究会でリーダーを務めていらっしゃる、このリーダーシップも「つよみ」になるでしょう」

「積極性・・・リーダーシップ・・・」

「そうです」

「会社に雇われて働くことに対し、こうした積極性やリーダーシップはどのような意味を持つのでしょうか?」

「はぁ~、メアリーさぁん、ですから、全てあなたという人間を知ってもらうためなのですよ」

「積極性やリーダーシップを発揮した経験があると伝えることが、なぜ私という人間を知ってもらうことに結びつくのですか?そうした経験があるからといって、私が一貫して積極的でリーダーシップがある、ということになるのですか?それに会社側が期待する積極性やリーダーシップと私の・・・」

「会社さんがそう言ってんだから、仕方ないんですよ!」

「仕方ないって・・・どうして?なぜこんなアピールをしなければならないのですか?結局「軸」って何なんですか?何もかもわからない・・・意味不明なことが多すぎるわ・・・なぜ?どうして?意味は?一体何を言っているの?誰か教えてよ!」

どんどこどこどこどんどこどん
どんどこどこどこどんどこどん

軸!やりがい!風通し!がんばったこと!がんばったこと!

どんどこどこどこどんどこどん
どんどこどこどこどんどこどん

成長!貢献!志望動機!グローバル!グローバル!

うんじゃらめいためだめたほいだ(うぇ~い)
えいよえんだほらみだみたほいだ(うぇ~い)

「きゃー!!あいつらよ!呪術師たちがくるわー!!」

「おい、どうしたんだメアリー!ここは家だよ!呪術師なんてどこにもいないから安心しなさい」

「はぁ、はぁ、夢・・・」

「そうか、メアリー、悪い夢をみたんだね。もう大丈夫、パパがついてる」

「・・・ねぇパパ、そもそもなんで会社に雇われて働くために私という人間を知ってもらわなくちゃいけないのかしら?」

「だめだ、メアリー。ここは精神力の国なんだから、いちいち意味や理由なんて考えちゃいけないんだよ」

「でも、パパ、会社はお互いを理解し合いたいから私という人間を知りたいと言っているのに、会社の話になると、どこも似たような回答をするか意味不明な言葉ではぐらかすだけなのよ。おかしいと思わない?「お互いを理解し合いたい」って繰り返し唱えるだけで実際には何もしないし、意味不明な言葉は溢れるがままだし、これじゃまるで呪術の儀式だわ」

「メアリー、もう一度言う。ここは精神力の国だ。与えられた現実をまず受け入れる。そこで踏ん張る。そして行動する。いいかい、与えられた現実をありのまま受け入れる、これが人生の第一歩なんだ。だから与えられた現実について考えるなんて、ましてそれに疑問を持つなんて、絶対にやっちゃいけない。メアリー、「和」だよ、「和」。「和」の精神で現実に没入し、気合いで踏ん張り、根性で動き回るんだ」

「「和」っていったい・・・」

「メアリー、受け入れるんだ」

「受け入れるって・・・何を?」

「現実をだよ」

「訳がわからないわよ!」

「この世は訳のわからないことだらけだ。私たちの友人が信じていた神様だって、訳のわからないものじゃないか。それでもみんな受け入れていただろう」

「神様とこの国の現実とじゃ話が全然違うわ」

「メアリー、現実はあくまでも現実にすぎない。本質を見誤るべからず、だ」

「何を言っているの?」

「現実は世間様がおつくりになったものだということだ。ここは本当に、本っ当に大切な所だよ、現実はね、世間様がみんなのために用意してくださったものなんだよ」

「世間様って・・・」

「疑問を持つな!世間様は世間様!神様と同じ、疑っちゃいけない何かなんだ!」

「仮に世間様が神様と同じだとして、一体なんで神様が就職活動にまで首を突っ込んでくるのよ!」

「文句を言うなああああ!!現実は世間様のまごころの現れ。だから文句を言っちゃいけないんだ!」

「文句を言うなって・・・パパどうしちゃったの?だとしたら世間様なんて頭おかしいじゃない!こんなのが神様と同じだなんて、どうかしているわ」

(ガサガサ、タッタッタッタ)

「ほらみなさい、世間様がお怒りになられた!」

「どう考えても人間が走り去っていく音よ!警察に通報しないと!」

「いい加減にしろ!どれだけ世間様を愚弄すれば気が済むんだ!」

「不審者を通報することの何がいけないの!?」

「口を慎みなさい。世間様は簡単には許しちゃくれないぞ」

「だからその世間様ってのは何なのよ!」

「メアリー、きみにはまだ「和」の精神が足りていないようだ」

「だから「和」の精神って・・・」

「質問をするなああああ!!」


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