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完全雇用ドリーム

「さあさあみなさん、大変長らくお待たせいたしました!仕事です!仕事をお持ちしましたよ!」

「みんな、指導者様だ!指導者様が我々に仕事を持ってきてくださったぞ!」

わー!!

大歓声を上げ、人々は瞬く間に指導者様の周りに集まった。

「指導者様、仕事をいただけるというのは、本当なのでしょうか?」

群衆の一人が恐る恐る質問すると、場は静まり返った。これは、夢なのではないか?仕事をさせていただけるなんて、何かの間違いではないのか?人々の間に不安が広がる。

「もちろん本当ですとも!みんなが仕事をし、みんなが誰かの役に立ち、みんなが自分でお金を稼ぎ、みんなが自立して生活する!これが我々、美しい国に生まれた人間にとっての、「当たり前の生活」であります!」

不安は払拭された。もう、何も、人々を脅かすものはない。

ばんざーい!!指導者様、ばんざーい!!

「指導者様!私は3年以上も引きこもっているダメな人間ですが、そんな私にもお仕事をいただけるのでしょうか?」

「もちろん!みなさんのためにたくさんの仕事を用意しましたよ!さ、さ、どうぞお好きな仕事を選んでください!」

この日、完全雇用プログラムが施行された。20XX年、人工知能の進歩とロボットの台頭で失業者数は世界的に増加の一途を辿っていた。労働を愛するここ美しい国でも資本の論理に逆らうことはできず、「仕事を奪うロボット野郎」への抵抗運動も空しく失業者は着実に増えていった。世界は変わった。これからは、ロボットが仕事をするのだ。

時代の潮流に合わせ、当初は月20万円を無業者に配ることに決まった。が、働いている者たちからすぐさま怒りの声が殺到。「タダで金を貰って、恥ずかしいと思わないのか!?」「本当にやむを得ない理由ならともかく、お前たちはそういうやる気の無い態度だから無業者になったんじゃないのか!?」無業者の中からも同調する声が続々と出始める。「自分の至らなさが原因で失業した人間が、タダで金を貰うのはおかしい。道義に反している」「タダで金を貰って本当に申し訳ない。働く以外に償う方法がみつからない」

タダで金を貰うのはおかしい。仕事をして償いたい。そう考える無業者が増加し、声は急速に大きくなっていった。全国各地で数十万人規模のデモが連日開催され、運動は1か月のうちに数千万人が賛同する大運動へと発展した。それに伴いハンストや実力行使に打って出る過激派が勢力を拡大。餓死者や逮捕者が出始めたことで大衆の間には「働かないと殺される」という噂が広まり、混乱収束を図った指導者様は速やかに完全雇用プログラムの導入を決定したのである。

完全雇用プログラム。全国民が漏れなく「当たり前の生活」を送ることができるよう、全員に仕事を与える。国民は月20万円をいただくため、週5日×8時間お仕事をさせていただく。研修・昇進(昇給はない)・旅行・忘年会・式典といった定期イベントの他、(サービス)残業・休日出勤・繁忙期(月100~200時間の残業)といったイベントもランダムで発生。「当たり前の生活」を求める人々のニーズに応えられる仕様になっている。仕事は様々あるが、代表的な(人気のある)仕事は次の3つ。大きな声で挨拶をさせていただく仕事。労働讃美歌を歌ってデモ行進させていただく仕事。お手伝いの仕事(たとえばAがBの洗濯をし、BがCの洗濯をし、CがAの洗濯をする)。もちろんどの仕事も「ロボットの邪魔にならない範囲で」という制約つきである。

「おはようございます!」挨拶をされたロボットは、生物の本性に逆行する不気味な生物モドキを見てしまったときのような表情を一瞬で切り替え、ニコリと笑って「おはようございます」と返事をした。「こんな私でも、ロボットさんのお役に立てるんですね」と喜ぶ人には、「ええ、あなたは社会的にとても意味のある仕事をしています」と応えた。人々の手に「当たり前の生活」が戻ってきたのだ。

「指導者様、この現象はどうしても理解できません」

「はは、さすがのロボットさんも理解が追い付かないようですね」

「あのニコニコしている人をみてください。確かに表向きは笑っていますが、我々が認識する生化学的変化は明らかにストレス反応のそれを示しているのです。あの人だけじゃない。我々のデータでは70%の人々が同様の反応を示している。かといって、仕事はいいので帰ってお好きなことを自由にしてくださいと気を利かせてみると、なんとストレス反応に加え恐怖反応まで示すのです」

「それが、この国の人間にとっての、仕事の第一義だということです。塗り重ねられてきた虚飾が剥がれ、ようやく人々にとっての仕事の本質が明らかになった。それだけの話ですよ」

「おっしゃることの意味が全く理解できません」

「理解されたら困りますよ。あなた方には必要な仕事をきちんとやっていただきたいのですからね」


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