労働市場ニ異常ナシ

「こんにちは」

「こんにちは、初めてのご利用ですか?」

「ええ」

「相談内容は、労働?就職?それ以外?」

「就職です」

「了解しました。相談員をお呼びしますので、先に部屋の方でお待ちください」

「はい」

「失礼します、えー、本日の相談は私が務めさせていただきます。よろしく」

「よろしくおねがいします」

「それでは早速履歴書の方を・・・・・・職歴なし!?その年齢で?」

「はい」

「今までなぜ働かなかったのですか?」

「お金があったからです」

「・・・・・・それで、お金がなくなったから働くと?」

「ええ」

「はいはいはい、はぁ~」

「なにか?」

「いやね、働くのって当たり前じゃないですか」

「当たり前なんですか?」

「いやいやいや、当たり前でしょう」

「しかし働きたくない人もいるわけですよね」

「だから?」

「強制労働じゃないですか」

「なんてこと言うんだ!強制労働ってのはね、奴隷がやるもんですよ。鞭で叩かれ、恫喝され、拳銃で脅され、使えなくなったらゴミのように捨てられる。これが強制労働です。働きたくない人たちはどうです?鞭で叩かれましたか?拳銃で脅されましたか?そんなはずはない!つまり、働きたくない人たちも自発的に働いているわけです」

「働きたくないのに自発的に働いているのですか?」

「簡単な話です。働きたくない人など実は存在しない、これが答えです」

「働かなかったら収入が途絶えますね。じゃあ、収入が途絶えたらどうなります?」

「収入は途絶えません」

「どうして?」

「働くのは当たり前だからです」

「そうやって強制されていることを誤魔化すんですか?」

「まさか!誤魔化して何になるんです?私はただ働くのは当たり前という人間の本性に基づく真実を語り、みんなが自発的に働いているという事実を語っただけです。それに、あなただって、こうして自発的に就職相談にきているじゃありませんか?」

「お金がなくなってこのままじゃ死ぬからですよ」

「誰も働けとは言ってない」

「資産のない者がお金を手に入れるには、働く以外に方法がない社会ですよ?」

「職歴なしじゃ、時給800円の仕事からですね。ああ、いや、その前にそうした反社会的な思想、いわゆる社会主義ってやつを改めてもらわなきゃ。我々はね、まあ、世間様を代表して言わせてもらいますけどね、みんなが自発的に働く、自由主義、の社会に住んでるわけですよ。その辺をきちんと理解し、合わせてもらわなきゃいけない。そういう意味でもね、まずはタダ働きから・・・」

「それじゃ生活できませんよ!」

「仕方ありませんよ。努力しないで怠けていたのですから」

「ところでなぜ800円なんですか?」

「能力がないからでしょ」

「生活が成立しない給料の仕事に、なぜ人が集まるのでしょう?」

「あなたはね、ワガママなんですよ。能力もないのにもっと給料よこせ?働かなくても贅沢がしたい?社会を舐めすぎでは?」

「働かないで最低限の生活がしたい」

「働いて最低限の生活がしたい、と。なら時給800円でいいじゃありませんか」

「そうやって労働市場に押し込むから時給800円なんてことになるんですよ」

「あー、あー、こちら労働相談所、労働市場の定時報告をお願いします。ピーピーガー・・・労働市場ハ、本日モ公平・公正カツ適切ニ機能シテオリマス。公明正大!公明正大!・・・ほらね?みんな自発的にね、好きな仕事を選んでるんですよ」

「一人で何してるんですか?」

「みんな苦労してるってことだよ!子供や家族のために必死で働き、保険料や税を納め、自分の手元には贅沢できるようなお金は残らない。どう思います?」

「労働を強制されてるから・・・」

「① 普通に働き、普通に貧しく暮らす②一生懸命働き、一生懸命貧しく暮らす③遺伝子と環
境に恵まれその才能とエネルギーの全てを労働に注ぎ込みなおかつ要所要所で好運にも恵まれ、豊かに暮らす。人間って生き物はね、選択肢が多すぎると逆に選べませんからね。3つぐらいがちょうどいい。3つぐらいがね、一番「自由」を体現するんですよ」

「ふざけてると思いませんか?こんな強制労働・・・」

「働いてる人たちを侮辱するつもりかああああ!?え?みんなね、自発的に、好きな仕事をやってんだよ。誰かのために闘ってんだよ。それを強制だなんて、愚弄するにも程があるぞ!」

「貧しい生活のために週何十時間も働かせる方が愚弄してると思いませんか?」

「私の月給、15万円なんです。これがどんな金か、働いたことのないあなたにわかりますか?満員電車!残業!休日出勤!嫌いな人間との付き合い!突然降りかかる理不尽!こうした試練に耐え、ようやく手に入るのが15万円って金なんだよ!」

「なぜ働いてるんですか?」

「なんだあ?」

「だってそうでしょ。強制されずに、自発的に好きな仕事ってのをやっているとしたら、そんな不満が出るのはおかしいじゃないですか」

「あんたはなあ!これから!自発的に!時給800円のお仕事を!させて!いただくんだ!感謝だ!感謝!感謝が足りないんだよ!」

「強制されてるのに感謝なんて・・・」

「ピイイイイピイイイイガアアアア!労働市場ハ、本日モ公平・公正カツ適切ニ機能シテオリマス!」

「ちょっと!」

「労働市場ニ異常ナシ!現代社会ニ異常ナシ!世間様ニモ異常ナシ!働ク以外ニ道ハナシ!」


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