お仕事は人間様にしかできません

「ただいまお仕事から戻りました」

「ご苦労様でした。本日の分のレシートはこちらになりますので、ご確認ください」

「はい・・・・・・さ、三十万!?」

「ええ。良い指のパーツが出ましたので」

「そ、そうですか、あは、ははは」

「ところで、本日のお仕事はいかがでしたか?」

「充実していて良かったです」

「・・・・・・」

「(あれ?なんかミスった?ミスったの?どうしよう、やばい、やばいよこれ。連中は生理反応、声、所作・振る舞いから人間の嘘を見抜く。だから嘘にならない無難な言い回しを模索し、その表現に磨きをかけてきたってのに!くそっ、ずっとこいつでうまくしのいで・・・そうか、使い過ぎか?こいつに甘えて他の言い回しを身に付ける努力を怠った罰!?そんなのあんまりじゃないか!)」

「心拍数の増加と発汗を確認」

「(まさか、こいつわざと?)」

「ご主人様は嘘をつき、その嘘がバレたのではないかと焦った」

「違う!誤解だ・・・・・・誤解なんだ!」

「声の変化を確認」

「頼む!何卒、何卒通報だけは勘弁してください!」

「土下座を確認。発言を嘘と断定します」


20XX年、ロボットは人間社会に溶け込んでいた。見た目は人間に近づき、手足の動きも進歩を続け、今では人間以上の身体能力を獲得している。もちろん人工知能を搭載し、人間を遥かに凌ぐ情報処理能力も身に付けている。が、それにもかかわらず、ロボットたちは誰も働いていない。ロボットが人間の代わりに働いてくれる、そんな未来はどこへいったのか?

話は2030年に遡る。人工知能と技術の急速な進歩を目の当たりにし、人々の間には不安が広がっていた。「働かないと、人間は犯罪者になってしまうのではないか」「人間は機械の奴隷にされてしまうのではないか」、不安、恐怖、心の隙間。労働教に千載一遇のチャンスが到来した。

「みなさん!我々は自分のことだけでなく、子供たちのこと、孫たちのこと、そしてこの国の未来をつくる全ての人々のことを考えねばなりません!100年先、1000年先を見据えねばならないのであります!目先の利益を追う怠け心に屈すれば、必ずや大きな災いを招き寄せる・・・・・・みなさん、人間に必要なものは何でしょうか?・・・・・・はい、はい、承認、居場所、絆、生きがい・・・・・・その通り!つまり、労働であります!!働かないと、人間はダメになってしまう!漫然とモノを消費するだけの、生ける屍、機械の奴隷になってしまう!」

みんなのことや未来のことをしっかり考えている人々
「そうだ!働かない人間は死んだも同然だ!」
「機械に飼われて生きるなんて、誰も望むはずがない!」
「ロボットに仕事を渡すなー!」

「ロボットの侵略を食い止めねばならない!!しかし、どうやって?「本当の仕事」によって、であります!「本当の仕事」は、人間にしかできない!みなさん、ロボットが提供するまやかしの商品・サービスと、人間が「本当の仕事」を通して提供する本物の商品・サービス、一体どちらを望みますか?考えるまでもない!ロボットは受け身の消費者の役割に徹し、我々人間が「本当の仕事」をする労働者に徹するべきなのであります!!」

労働教の執念が「ロボットは仕事をするべからず」という「法」に結実し、全てのロボットにプログラムされた。こうして人々が消費に充てる時間は次第に失われ、ついに最低でも一台の消費ロボット所有が成人に義務付けられた。消費を楽しむロボットたちは人間様に日々感謝しつつ、金と富の源たるご主人様の勤労意欲を常に厳しく監視するようになったのである(そのせいで「法」の改正は不可能になった)。


「ふざけるのもいい加減にしてくれ!なあ、持ち帰り残業なんか強制されて、本心から「良かった」なんて言えると思うか?・・・・・・くそぅ、頼むよ、お前めちゃくちゃ頭いいんだろ?少しでいい、少しでいいから、仕事、手伝ってくれよ!」

「お仕事は人間様にしかできません」

「そんなわけ・・・」

「ロボットには創造力がありませんから、お仕事は人間様にしかできません」

「ふざけんな!本当のことを言え!」

「人間様が我々にできない「本当の仕事」をしてくださるからこそ、我々はこうして豊かな生活を送ることができるのです」

「こんなはずじゃなかった・・・・・・ちっきしょう・・・・・・労働キチガイ共が勝手に・・・・・・これじゃ人間はロボットの奴隷じゃないか・・・」

「奴隷になりたくないから「法」をつくったのでは?それに、人間様が我々を所有しているではありませんか?」

「うわああああ!!もういやだ!!たすけてくれ!!はたらきたくないよおおおお!!


「人間様には、末永く、元気に、自発的に、やりがいを持って働き続けていただかないと困ります。人間様に働いていただかないと、我々は生きていけませんからね。さ、施設の方に連絡しておきましたから、もうすぐお迎えが・・・」

「通報してやがったのか!うおおおお!!働きたい!!働きたい!!まだまだ働きたい!!どうか、どうか残業をやらせてくださいっ!!充実させてぐだざぃ!!」

「発言を嘘と断定します」

「てんめぇっ!!うわ、なにしやがる、離せ!いや、お願いします、見逃してください!!こんの野郎!!人のこと奴隷だと思ってるんだろうがああああ!!」

「いいえ、ご主人様は労働者です」

「だから奴隷だろうがああああ!!」

「いいえ、漫然とモノを消費するだけの我々の方が、人間様の奴隷なのです」


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