カネでできたくにのなきごえ

『どこから来てどこへ行くの?』

「あ~あ、また行ってしまいました。いくら待ってもこないので、ちょっとぐらいと思ってトイレにいったら、その間に行ってしまいました。もう何度も、同じ失敗を繰り返しているのです。ちょっとぐらい、と思ったら、そこを狙っていたかのように、行ってしまう。間が悪いと言いますか、ずっとこの調子なのです。不思議なもので、ちょっと目を離した隙に、みんな、サーッといなくなってしまう。どこから来て、どこへ行き、どこで止まり、どこへ帰るのか。せめてどこから来てどこへ行くのかだけでも知りたい、とは思うのですが」

『あなたも強欲なのですか?』

「知りませんかー、誰か、知りませんかー、私の名前、誰か、知りませんかー」

「はいはい、あんたの名前は知らないけれど、あっしはあんたに名前を売ることができやす」

「それは助かります。私の顔に合った名前、一つ売ってくださいな」

「ん、んん~?あ~大変だ!あんた、そもそも顔がないじゃないの!」

「そうだ、そうだ、忘れてました」

「けど大丈夫、ここは資本主義社会だからね。何でも売ってる、顔も買えるよ!」

「どうして何でも売っているのですか?」

「資本主義社会ではね、人間の欲望が解放されて、みんな強欲になっちまうからだな」

「ほう、それでは、あなたも強欲なのですか?」

「う~ん、どうだろねえ」

「私ね、みんなが強欲だなんて、どうしても思えないのですよ。だから、もしそうなっているとしたら、それは何かに強いられているのではないか、あるいは憑かれているのではないか、こういう風に考えてしまうのです」

「あんた、変なこと言うね!」

「これは失礼!また変なことを言ってしまいました。私には名前も顔もないので、たまについつい変なことを言ってしまうのです。けど、私、変なこと言うのが好きなので、実は名前も顔も欲しくないんですよ」

『みんなで借りれば怖くない』

「みなさん、よろしいですか、おカネは、この社会の血液であります!私共は、社会にとって欠かすことのできない、その血液を供給する使命を負っているのであります!みなさんが需要し、私共が供給する、この二人三脚の関係をより強化し、経済のため互いに邁進していこうではありませんか!ですから、どうか、おカネを借りてください!私共は、もっと、もっともっと、社会貢献をさせていただきたいのです!」

「借金は嫌なので、おカネを配ってくれませんか」

「なんてことを言うんだ!そんなことしたら、この社会は大混乱に陥ってしまいますよ!いいですか、借金は秩序であります!借りたおカネにリスクの対価たる利子をきちんとつけ、期日に返済する。このやり取りが、人間を真面目で善良たらしめるのであります!」

「あの~、もし借金するのが世界で私一人だったらどうなりますか?」

「そんなことあるわけないでしょう!だから安心して、借金してくださいよ」

「私一人が10万円借りただけで、他の誰も借りなかったとしたら、私はどうやって利子を払えばいいのですか?」

「大丈夫、あなたの子供が借り、孫も借りればいいのです。みんなで借りて、みんなの子供も借りて、みんなの孫も借りる。ね?みんなで借りれば怖くない」

『悪いけどオレは逃げきらせてもらうよ』

「おい、若いの、なにさっきからコソコソとオレの後付けまわしてんだ?」

「付けてません。たまたま進む方向が同じだっただけです」

「嘘つけ。お前、若いんだから、オレのことなんてすぐに追い越せるはずだよな?」

「あなたがコソコソ後ろを向いて、ぼくが早く歩くと、同じように早く歩くからですよ」

「当たり前だろうが!今の若い奴は、何するかわかったもんじゃないからな!さてはオレが・・・うわああああ!!」

「どうしました?」

「後ろ!後ろ!」

「え?・・・うわああああ!!た、たすけて・・・あっ・・・もうあんな所に・・・!」

「悪いけどオレは逃げきらせてもらうよ。お前は頑張って走り続けてくれ」

『カネでできたくに』

「すいませ~ん、私たち、借金から足を洗いたいのですが」

「そうですか。私は別に構いませんが、あなた方の土地はカネでできています、あなた方の家もカネでできています。着ている物も、持ち物も、食べる物も、あなた方自身も、全てカネでできています」

「だからなんですか?」

「足を洗おうと思ったらどうなるか、おわかりでしょうか?と、確認したのですよ、念のために」

「それでも足を洗いたいのです」

「あっと、利子はどうなります?今ある全てのものだけでは、元本分しか返せません。これじゃあ利子の分が残るから、足を洗えませんよ」

「どうすればいいですか?」

「「今あるもの」だけでは足りないいじょう、「まだないもの」でもお支払いしていただくことになります」

「「まだないもの」とは何のことですか?」

「「まだないもの」は、まだないものですよ」

「・・・・・・」

「今のままで、一体何が不満なのですか?無理をするのではなく、これまで通り、ちょっとずつ返済していく、これが最も賢明だと思いますよ。ちょっとずつ、ね?」

『健全な生活を続けてください』

「うひょ、うひょ、借金完済!うひょひょ!」

「おめでとうございます。これからも頑張って利子を払い続けてください」

「利子?なんてこと言うんだ!私はね、今さっき借金を完済したんですよ!」

「あなた、何も消費しないで生活してるの?」

「いや、そんなわけないでしょう」

「・・・・・・あはははは、いや、いや、どうかしていました、なんて勘違いをしてしまったんだ!あなたは模範的な市民のようですから、これからもそうした健全な生活を続けてください」


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