天国に至る門

ある国の若者が、神に尋ねました。

「神よ、なぜ私はつらい競争に身を投じねばならないのでしょうか?」

すると、どこからともなくたくさんの紙が集まってきて、人型の像を形作りました。

人の形になった紙
「我は神なり。汝、我が欲しくはないのか?」

若者は欲得で充血した目をカッと見開き、地面に何度も頭を打ち付けながら、答えました。

「欲しい!あなたが、欲しい!」

満足げに頷く神(ただし紙でできている)
「ならば、争え!そして、手に入れよ、内定を!」

若者は戦慄しました。なぜなら、若者は神の力を借りねば生きていけないからです。神の力がなければ、何一つ手に入れることができません。若者には神の力がどうしても必要なのです。

若者は己の無力を痛感しました。

「神様がいないと、何もできない」

若者は己の孤独を痛感しました。

「大いなる歴史の流れも、人が拠って立つ大地も、絆に基づく共同体も、神様の力の前では、全て無力だ」

若者は理解しました。

「神様以外に、拠り所たりうるものはない」

すると、どこからともなくさらにたくさんの紙が集まってきて、若者の周りを舞い始めました。

神(カサカサ音を立てている)
「汝に問う。会社とは何か?」

若者は答えました。

「神の使いであります」

ひゅ~。 ひゅ~。

風が吹き始めました。

神(ヒラヒラ舞っている)
「汝に問う。労働とは何か?」

若者は一寸考えて答えました。

「神の力を分けていただくための儀式であります」

ひゅるるるる! ひゅるるるる!

風は強さを増し、嵐の様相を呈し始めました。神の怒りに触れてしまったのです!焦る若者は必死に考えを巡らせ、答えました。

「修行であります!神の使いに師事し、修行することであります!」

神(怒りがおさまらぬようだ)
「汝に問う。内定とは何か?」

若者は怯えながら答えました。

「神の使いに仕える者という身分の約束であります」

びゅるるるる!! びゅるるるる!!

紙が押し寄せ、若者を飲み込むと、天高く伸びる巨大な竜巻となって、若者に襲い掛かりました。

激怒!!

若者は飛ばされぬよう地面にへばりつき、一心不乱に許しを請いました。

神(激怒している!)
「会社の温情なかりせば、貴様はどうなる!!」

雷が若者を直撃!

「死 ん で し ま い ま す ! ! !」

風がやみ、無数の紙がバサバサッと宙を覆い尽くしました。若者がその無秩序な舞を畏まってみていると、紙はいつの間にか厳かにそびえる門を形作っているのでした。

神(なんと寛大であるか!)
「物わかりの悪い人間は、直にみる以外あるまい!」

門が開くと、そこにはたくさんの人々がうごめいていました。手枷足枷をはめており、異様な動きをしていました。何人かは金の枷をはめ、大半の人は・・・・・・なんと、紙でできた枷をはめています。紙の枷をはめた人たちは、枷を破らぬよう、慎重に手足を動かしていました。これが異様な動きの正体でした。

遥か遠方には、山と見紛うほど大きい装置がありました。装置はゴウン、ゴウンと音を響かせ、次から次へとモノを産み出しています(装置の付近では何かが行われているようですが、ここからでは見ることができません)。

ほいほいほいほい!
ずんどこずんどこ!
ぱおぱおぱおぱお!
どんどこどこどん!

装置に圧倒されていた若者は、突然の奇声に驚いてしまいました。一体なにごとでしょうか。金の枷をはめた人が取る珍妙な音頭に従い、紙の枷をはめた人々が踊り始めたのです。とても、窮屈そうに。それでも、精一杯、体をぷるぷると震動させています。

神(慈愛に溢れている!)
「これが現実で真実だ!」

ずどーん!!

踊りに呼応し?、装置がぶるぶる震えたかと思うと、轟音とともに、神の力が宿った紙が天上に放出され、群衆の上に降ってきました。踊る。生まれる。降ってくる。踊ることで、世界に神の救いがもたらされる。因果関係の成立。

紙が落ちてくると、金の枷をはめた者たちはぴょんぴょん飛び跳ねながら、紙の枷をはめた者たちは枷を破らぬよう慎重にぴょこぴょこ飛び跳ねながら、無我夢中で紙をかき集めはじめました。しかし、僧衣を纏った者が呪文らしきものを唱えながらやってきて、ハアッ!と気を発すると・・・・・・なんということでしょう!紙がスルスル~と人々の手をすり抜け、その者のもとに集まっていくではありませんか!人々は呆然としていましたが、すぐに我に返り、念力が及ばなかった紙を巡って争いを再開しました。

金の枷をはめた人たちが安心して動くことができる一方で、紙の枷をはめた人たちは激しく動くことができません。ですから金の枷をはめた人に襲われてしまうと、紙の枷をはめた人はひとたまりもありません。手に入れた紙を腹の下に隠し、体を丸めて耐えてはみるものの、最後は金の枷をはめた人に紙を全部奪われてしまうのでした。その隙に、運よく襲撃を免れた人たちは、ぴょこぴょこと逃げていきます。尊い犠牲です。しかし、どうしたことか、安全地帯に到達すると、紙の枷をはめた人たちはクルッと向き直り、犠牲者を嘲笑し、略奪者を称賛したのです。「勝者」たちは、黄金の枷を誇示し、声に応えました。

金の枷を舐め回しているお兄さん(誇らしげである)
「ここは天国だ!」

金の枷に頬ずりしているお姉さん(誇らしげである)
「ここは天国だ!」

逃げおおせた人々(枷を破らぬよう慎重に両の拳を突き上げている)
「うおー!!!天国!天国!天国!天国!」

紙がなくなると、みんなそれぞれの場所に戻っていきました。紙を手に入れることができなかった人たちは、装置から出てくるモノを恨めしげに凝視していましたが、一人、また一人、びょこ、びょこと、重そうに跳ねていきました。しかし、最後の一人は、虚ろな表情でモノを眺めていたかと思うと、突如錯乱し、ゲギャギャギャギャ!と絶叫して喉をかきむしりはじめました。すると、その激しい動きのせいで、紙の枷が、ピリッと破れてしまいました。しまった!と思ったときにはもう遅く、足元が割れ、その人は地の底へ吸い込まれてしまいました。紙の枷をはめた人たちは、自分の枷をジッと見つめ、「ありがたや・・・ありがたや・・・」と呟いていました。

「ははー!!これが、神様のしかけ!!」

若者は悟りました。つまり、「社会人」になる資質を開花させたのです。


「今一度汝に問う。会社とは何か?労働とは何か?内定とは何か?」

若者に迷いはありませんでした。

「会社とは、天国であります!労働とは、世界救済であります!内定とは、通行証であります!天国に至る門の、通行証であります!」

若者は紙を握りしめると、リクルートスーツを求めて走りだしました。


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