苦労教

「苦労教って知ってる?」

「知らないけど名前で大体」

「うん、「他人は自分と同じ(あるいはそれ以上の)苦労をしなければならない」を実践する宗教だね」

「ひどい奴ら。そんな人間、実際にはほとんどいないだろ」

「「自分たちがしてきた無駄な苦労を君たちまでする必要はない」と言って手を貸してくれる人がいたら、どう思う?」

「神様じゃん」

「つまりそういうことだよ」

「苦労教徒が多すぎて感覚が麻痺してるのか」

「大半の信者は消極的な追従者にすぎないのだけど、一部の狂信者のエネルギーが半端じゃない」

「源は不公平感だろうか?楽をするのはずるい、自分たちがバカをみるなんて許せない、当たり前の義務を果たさないのはダメ、とか」

「敵に対する場合だと、不公平感も大きな源の一つになるのだろうね」

「敵の場合?」

「「苦労」をおとなしく受け入れて従う味方に対しては、「優しくて親切」だろ?」

「というと?」

「困ったことがあったら何でも相談してね」

「いるね。そんな気遣いはいいから、改革してくれよ」

「こういうことがやりたいんだよ。実際、改革は絶対にやろうとしないくせに、相談なんかのためには忙しくても時間をつくる」

「苦労を語り、聞き、共有するのは、なんだか嬉しいというか、認められたと感じるというか。あとは、自分が耐え抜いた苦労でひーひー言ってる人をみたら自尊心が満たされるとか」

「苦労が役割を提供し、交流のきっかけや誇りを与え、信者同士の絆を醸成する」

「同じ苦労を共にした経験を語り合いたい、同じ苦労をする人の力になりたい、同じ苦労をする人を応援したい、苦労を耐え抜いたことで認めてほしい」

「つまり「同じ(と感じられるような)苦労」をしてもらわないと困るんだよ。信者にとって苦労は前提、存在理由を問うてはならないのさ。ずっと当たり前のこととして考え、行動し、時には信者同士で愚痴を言い合ったりしてきたんだから。それは既に生活の一部になっていて、個人の思考様式やら将来設計やら集団の価値観やらにも入り込んでいる。ここまでくると、それ自体について考えようとするだけで大きなしんどさを感じるようになるから、「伝統だから」とか「みんなやってきたから」で済ませるようになる」

「「押し付けている」という感覚さえなくなるんだろうね」

「だから改革には全力で反対するし、信者にとって改革者は神様ではなく、自分たちの存在価値を脅かし秩序を乱す裏切者なんだな」

「裏切られたとか、はしごを外されたとか、無理やり変えられたとか、とんでもなく酷いことをされたように感じるのだろうか?」

「さあね。ただ神を潰して改革を骨抜きにするエネルギーは相当な大きさだろう」

「神が殺されるのをみんな黙って見てるだけ・・・・・・」

「負のパワーに威圧されたのか、相手の「期待」を慮ったのか、苦労を経験していないことに負い目を感じたのか。まぁ、これから苦労するみんなも、いきなり押し付けられるわけではないからね。その頃には既に苦労が生活の一部になっていて、こっちもまた「押し付けられている」という感覚がなくなってる」

「大抵の場合、苦労経験者は先輩ってのも大きいんじゃない?」

「キミは入ったばかりでまだ経験が浅いからわからないかもしれないけどなぁ」

「下の者同士で結束してもあっさり弾かれるよね」

「なんかさぁ、最近全体的に雰囲気悪くない?」

「反抗の空気を敏感に察知して、ネチネチプレッシャーをかけてくる」

「結局みんなで我慢することになるんだけど、みんなで無駄な苦労を続けているうちに、苦労に目覚める奴も出てくる」

「あれ・・・・・・受け入れられてる・・・・・・?」

「みんなで苦労してると一体感が生まれてくるんだ。そして「頑張ってくれてありがとう」とか「感謝してる」とか、こういう一言一言の発信・受信が共に快感・高揚感をもたらしだす」

「内部崩壊だ」

「崩壊する方がましさ。ここで「最高の仲間」との横のつながりでもできたら、世代交代しても改革の目が無いままだ」

「苦労は増える一方である」

「そういう苦労に「実利」を装わせるからまた腹立つんだ」

「苦労した経験はきっと役に立つから」

「苦労教徒とすれば事実なんだろうがね」

「無駄な苦労をしてるとは思いたくない、となると苦労教徒になるしかない」

「無駄な苦労であればあるほど、無意味であればあるほど、苦労は意味を持つものなのさ」

「ひどい宗教だ」

「ところで、現代社会における代表的な苦労は言うまでもなく労働である」

「勘弁してくれよ」

「「働いて豊かになる」とか「成長」とか、ちゃんと「実利」を装わせてるだろ」

「人間の能力など高が知れている。必要とされる高品質のモノやサービスをより多く効率的に生産・提供するには、人間を機械に置き換えていく必要がある。人間の労働を減らすことで豊かになる」

「それを可能にするのはこれまでの積み重ねと一部の人の労働であって、賃金分配のために創出された/守られている労働ではない。人間が働き続けたらいつまで経っても豊かにならない」

「その一部の人を支えているのは他の多くの人の労働で、さらにその人たちを支えているのは・・・・・・といった世界観があるね。苦労=労働はどれも有益だから互いに感謝し合おう、みたいな」

「今現在の必要を満たすための労働なわけだが、雇用を守るために創り出される「必要」、ピンハネを正当化するための「必要」、カネのために宣伝される「必要」、「人間にとっての必要」ではなく「労働者にとっての必要」、こういう「必要」がごちゃ混ぜになってるせいで、なにがどう無駄なのか判然としない。個々の業務も、どれが無駄かはっきりとはわからない。その隙を突いてくる」

「そういう「必要」のために無駄なことをしている、とはならず、みんなが頑張って働いてくれているおかげで、となる」

「逆に、人間が必要としていても、カネがなければ手に入らない。カネがなければ廃棄処分。カネがなければ生産さえしてもらえない。そしてそのカネは苦労=労働に紐付けられている」

「強制をなくせば、件の世界観が正しいかどうか明らかになってくるはずだが、そもそも「強制」という感覚がないし、現状に疑問を抱いている人でさえこれをなくすことはタブーと考えていて、どこからか「良い所」を探し出してきて肯定してしまう。無駄な仕事がなくなったら存在価値を感じられなくなる人が出てくる、みたいな」

「強制された苦労=労働をそうと感じなくなるほど深く受け入れてきたいじょう、こいつが最善で最高でないと困るんだよ。そして最善で最高であるからこそ、全力で守ろうとする。こいつは「人間が作った制度」ではなく「自然」であり、他の選択肢は無い。あったとしても、全てこいつより悪くなくてはならない」

「豊かになるのを邪魔し、「実利」を装わせて望まない人間にも無駄な苦労を強制し、「適応」できない人間を追い込んで見殺しにする。これが「社会貢献」か。変な妄想のために、このまま人生を無駄にし続けないといけないの?」

「強制?人生の無駄?何を言ってるんだい?確かにつらいことは多いけど、そのおかげで今の豊かな生活があるんだよ?だからみんなそれぞれ目の前の現実と向き合って、誇りを持って頑張ってるんじゃないか。みんながみんなで支え合って、みんなが自分のやるべきことをしっかりやって、さ。人類ってのは、そうやって繁栄してきたんだよ?それとも君は、共産主義でみんな平等に貧しくなる方がいいって言うのかい?パチンコと酒に溺れるだけの生活の方がいいって言うのかい?人権も自由も豊かさも捨てて、悲惨な貧困を受け入れろって言うのかい?目先の利益に囚われて、地獄への道を進めって言うのかい?」

「え?」

「案ずるな。消極的とはいえ、もう加担しちまってるんだよ。だろ?今までの苦労だって、意味で溢れているじゃないか。少なくとも、我々のチームにとって君の頑張りは大きな価値を持っているし、その経験は我々にとって、そして君自身の人生にとっても、大いに役に立つと思うんだ。ははは、だから人生の無駄とか言うなよ?な?みんな君を必要としているんだ。ね?今は我慢のときさ。うん、君には本当に感謝している、ありがとう」

「冗談だよね?」

「休憩は終わりだ。モードを切り替えろ」


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