FC2ブログ

無職安定所

この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり。そんなみなさんの心のスキマをお埋め致します。いえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。さて、今日のお客様は・・・・・・。

「はぁ、またダメかぁ。いつまでこんなこと続けなきゃいけないんだろう。毎日毎日、興味のない会社に、嘘だらけのアピールして、断られて、落ち込んで、はぁ・・・・・・イッタッ!」

「おっと、これは失礼いたしました。おケガはありませんか?」

「ああ、いえ、こちらこそボーっとしていてすいませんでした」

「ほう、だいぶお疲れのようですな。まだお若いのに、顔も少しやつれて」

「ははは、ちょっとうまくいかないことばかりで」

「何かお悩みがあるようですね。よろしければ、私が話を伺いますよ」

「えっ!?そ、そんな、会ったばかりの人に、悪い・・・」

「申し遅れました。私、こういう者です」

「心の、スキマ?」

「ええ、私はボランティアで悩みを抱えている方を支援しているのです。ささ、そんな遠慮なさらずに。ここは私が奢りますから」

・・・・・・

「なるほど、それでは、労土(ろうど)さんは就職活動に身が入らず悩んでらっしゃるわけですね」

「ええ、自分が何をやりたいのかわからないっていうか・・・・・・。どの仕事も社会を支える尊い仕事だとは思うのですが、いまいち本当に役に立ってる気がしないというか。それでこのまま就活を続けていいのかわからなくなって。けど、親は「コラ、自己同一性(あいでんてぃてぃ)!ブラブラしてないでちゃんと働きなさい!」とうるさくて」

「ほほう、あなたは自分自身の心と社会における役割とを一致させることができずにいる。所謂アイデンティティの危機というやつですな」

「アイデンティティの・・・・・・危機?」

「ええ、社会の中でするべきことを見つけられない若者が、心と社会的要請との矛盾を解消できぬまま、無力感に苛まれながら彷徨い続け、やがては広大な文明社会に飲み込まれ、心も人生も失ってしまうのです」

「そんな・・・・・・」

「そうならないためには、早急に確かな道標をみつけなければならない」

「道標?」

「ここへ行ってみてください」

「はあ、無職安定所?」

「ハイ、そこはある有力者が、今の社会には無職こそが必要であると考えて設立した無職養成機関・・・」

「就活で悩んでる相手に、無職?」

「今の社会は職に就くことを促す言説で溢れています。あなたはそんな社会で道に迷い、矛盾に苛まれていらっしゃる。ならば、その反対に無職に就くことを促す言説に触れてみるのが良いでしょう。もちろん、受講料は無料。さらに、修了するまで生活の面倒を全てみてもらえるのです」

「ええ!?いくらなんでもそんな都合のいい・・・」

「まあまあ、とりあえず行ってみてください。あなたの求める「答え」がきっとみつかるでしょう」

・・・・・・

「・・・・・・というわけで、就活を続ける気がなくなってしまって」

「なるほどね。そうやって疑問を感じて立ち止まることは、世間では変な目で見られがちだけど、私は絶対に必要なことだと思うよ」

「そ、そうでしょうか?」

「うん。ところで君は労働って何だと思う?」

「えっと、そうですね、自分が成長できる機会、人が幸せになる手段、あとは・・・・・・」

「今の労働はね、自己中心的になりすぎているんだ。社会や他人が何かを必要とし、それを満たすために労働の必要が生じる。それと技術や資源に応じて、人間が労働する必要が生じる。意欲と能力のある人間が働き、必要を満たす。実際は単純な過程なんだよ。技術は人々の積み重ねで、資源は自然の贈り物。この単純な過程の中で、今の人間の果たす役割なんて微々たるものだ。なのに、「人は働いて稼がねばならない」なんて決まりをわざわざ作るから、みんな自分のことだけで精一杯になって、自己中心的な動機で、自己中心的に労働するようになっている。過程から生じる果実をより多く奪う、より多くの分け前に与る、正当化のために「役割」をつくり、そういう「イス」を他の人よりうまく確保する、そんな競争を強いられているんだ」

「自己中心的・・・・・・」

「成長とか、アイデンティティとか、この過程とは本来何の関係もないだろう。変な決まりのせいでみんなが自己中心的になって、自分のイスを確保しようと、無関係なはずの言葉や理屈を躍起になって持ち込む。働かせてください!と過度に遜ってみたり、仕事を奪わないでください!と被害者になってみたり。もちろん労働に何かを見出すのは自由だが、そうした「何か」をあたかも「人間の条件」のように扱うようになると、自己中心的な価値観が増殖して、社会や他人のことを疎かにするばかりか、確保した自分の労働に執着し、進歩や発展を邪魔しはじめる。創出された「役割」も実は邪魔なだけかもしれないし、提供されるものも実は邪魔なだけかもしれない」

「働くことが・・・・・・そんな・・・・・・」

「無職は寄生虫と言われるけど、ただ純粋に消費しているだけならば、過程の循環に必要な「消費」を担っているだけだから、別に寄生でもなんでもない。というか、過程に寄生しているのはむしろ賃金労働者の方なんだな」

「ということは・・・・・・反社会的なのはむしろボクの方・・・・・・」

「ここで考えを改めていけばいい。少しずつ納得していって、矛盾を解消したうえで何をしていくか決めよう」

・・・・・・

「いやあ、素晴らしい施設を紹介していただきありがとうございます!」

「おやおや、気に入っていただけたようで何よりです」

「あのまま就活を続けていたら、自分の心に合わせようと役割を過大評価し、オレが社会を支えてるんだ!なんて言ったり、社会や他の人に害為すことを「社会貢献」と言い張ったりしていたと思うんです」

「それはよかった。ただし、一つだけ約束してください。矛盾を解消し、これだという確かな道標をみつけるまでは、絶対に就職活動を行わないでほしいのです」

「え、あ、はい。ははは、ボクとしても、初めからそのつもりでしたから」

「いいですね。もし就職活動を行ってしまったら、あなたは矛盾に耐えられず、大変なことになりますよ」

・・・・・・

「もしもし、ああ、母さんどうしたの?」

「・・・・・・」

「母さん?」

「自己同一性(あいでんてぃてぃ)、落ち着いて聞いて・・・・・・お父さんが、会社をクビになった」

「え?」

「それでね、お父さん、会社のお給料もかなり減らされてて、あんたには言ってなかったけど、実は借金が・・・・・・」

「うそだろ・・・・・・」

「お願い、自己同一性(あいでんてぃてぃ)!まじめに働いて!あんたしかいないの!お願い!」

・・・・・・

「採用!?本当ですか!?はい、はい、全力で働かせていただきます!はい、頑張ります!よろしくお願いします!・・・・・・はぁ~、よかったぁ~。へへ、ボクだってその気になれば、自分を偽ることぐらい・・・」

「労土さん」

「げえっ!?」

「あなた、約束を破りましたね」

「い、いや、これは仕方なく・・・」

「いいでしょう。そんなに働きたいのなら、私が今すぐに矛盾を解消してさしあげます」

「あわわわわ・・・」

「ドーン!!!!」

・・・・・・

「おらおらぁ!カネ稼いでんのは誰だと思ってんだぁ!?おい!?オレ様だよ、オレ様!オレ様がカネを生み出してんだろうが!」

「自己同一性(あいでんてぃてぃ)!もうやめて!」

「ひゃーっはっはっは!社会の役に立たないクソ無職は死ね!おら!おら!オレ様が会社、いや、社会を回してんだよ!同僚も、客も、会社も、社会も、みんながオレ様を必要としてるんだ!うひょ、うひょ、うひょ」


「働くために自分を偽るぐらいなら、いっそ染まりきってしまう方が幸せなのかもしれません。オーッホッホッホッホ」


関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

遊民

Author:遊民
読みたい本が山積みなのでニートしてます。

twitter
最新記事
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる