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まぁ、そんなもんだよね

むかしむかしあるところに、働き者たちの国がありました。大人は朝から晩まで働いておカネを稼ぎ、子供は働き者になるために学校で勤勉の精神と協調性を学び、みんな幸せに暮らしていました。一生懸命働けば働くほど貰えるおカネは増え、生活も社会も良くなり、みんながもっと幸せになれる、人々はそんな希望を持って生きていたのです。

しかし、少しずつ、確実に、国は不安に包まれていきました。一生懸命働いても生活が良くなるどころか、どんどんどんどん苦しくなる一方になってしまったからです。頑張りが報われないことはそれまでもありましたが、みんなが我慢してもっと頑張ることで困難は乗り越えられ、頑張りが報われる日々が帰ってくるのでした。今回は違います。何年も、何十年も、みんなで我慢して頑張り続けているにもかかわらず、生活は苦しくなるばかりなのでした。働き者のご先祖様たちのおかげでたくさん進歩したはずなのに・・・・・・一体この国に何が起こっているのでしょう?

みんなが頑張っているのに、生活が良くならないなんてありえない!一生懸命働けば働くほど生活が良くなる、これは常識や自然法則として働き者たちの無意識の底に刻み込まれていたのです。みんなが漠然と抱いていた疑念は確信に変わっていきました。

犯人は無職に違いない!

確かに、この災厄が始まって以来、無職が増加していました。客観的なデータこそが動かぬ証拠。頑張っても報われなかったのは、単純に頑張りが足りなかったからなのです!無職が働かず、隠れてみんなの足を引っ張るせいで、災厄が続いているのです!働き者たちは無職を働かせようと様々な手を尽くしましたが、無職は仕事を選り好みするばかりで一向に働こうとしません。そればかりか「どこも雇ってくれない」「仕事が無い」などとあからさまな嘘の言い訳を並べ立てるのです。善良な働き者たちもさすがに呆れ果て、話し合いの末、みせしめとして無職を一人公開処刑することに決めました。

捕らえられた無職は牢屋の中で何度も反省の言葉を口にしました。根性が無いせいで仕事が長続きしなかったこと、なにかとバカにされるのが嫌で仕事を放り出して逃げてしまったこと、受験も最後まで頑張れなかったこと、これまでの人生の全てを後悔し、否定し、せめて死ぬ前に心だけでも入れ替えたい、是非働き者のみなさんの前で懺悔させていただきたいと涙ながらに訴えました。これには偉い人たちも心を動かされ、処刑の前に謝罪する時間を特別に設ける運びとなりました。

無職が死ぬ前に懺悔する。噂はたちまち国中に広まりました。大災厄を招いた巨悪=無職が自分たちに謝罪する、当たり前じゃねーか!今更反省したって遅いが、まあ最後の言葉ぐらい聞いてやるか!娯楽に飢えた働き者たちは無職の公開処刑を心待ちにしていました。

処刑当日。大群衆が詰めかけた処刑場に、無職が連行されてきました。人々のざわめきは、無職の姿をみた途端歓声に変わりました。無職は反省・後悔の念と国を衰退させた罪悪感に押しつぶされ、今にも死にそうなほどやつれ果てていたのです。反省の言葉への人々の期待はますます高まるのでした。

「み、みなさんは・・・・・・み、みなさんは・・・・・・」

無職は喋り始めると同時に泣き始めてしまいました。罪悪感が極まったのでしょうか、死ぬのが怖くなったのでしょうか。反省の言葉を期待していた人々はヤジを飛ばしました。

「泣いてないで早く喋れ!」
「お前が全部悪いんだぞ!」
「この疫病神!」

変化は一瞬のうちに起こりました。後悔と反省と罪悪感に満ちた無職の振る舞い、それは確かに本物であり、演技の要素は一つもありませんでした。何がきっかけとなったか、それは本人にも、いや、きっと仏さまにもわからないのでしょう。無職はこの瞬間に全てを悟り、境地に達してしまったのです。無職は穏やかな、しかし見方によっては皮肉ともとれそうな笑みを浮かべ、フッと鼻で息を吐くと呟くように言いました。

「まぁ、そんなもんだよね」

無職はポカンとする人々をぐるりと眺め回すと、わっはっはっはと大笑いし、こう言い放ちました。

「無職が全部悪い!みなさんは、まぁ、そんなもんだよね。意味、わかる?」

処刑は速やかに執行されました。

次の日にはもう「まぁ、そんなもんだよね」が流行していました。

「勉強しないで遊んでると無職になっちまうよ!」
「だったら勉強の仕方を教えてよ!どの参考書がいいか一緒に考えてよ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで手を動かせ!大人は仕事で忙しいんだ!」
「お父さんも、お母さんも、まぁ、そんなもんだよね」

「犯罪以外にも何か道があったはずだろう?」
「飢えて死ぬ寸前だったんですよ」
「まじめに働いていればそうはならなかっただろう?」
「正義の味方さんも、まぁ、そんなもんだよね」

「家出して男の家を転々と・・・・・・君は何を考えてるの?」
「だって働いて自立しろってしつこいから」
「いやね、真っ当な職に就いて真っ当な人生を歩むのが自立・・・」
「弱者の支援者さんも、まぁ、そんなもんだよね」
「そう言わないで。ちゃんと社会経験を積めば、今からでもやりなおせ・・・」
「まぁ、そんなもんだよね」

公開処刑の効果か無職は減りましたが、生活はますます苦しくなったので、「働けば働くほど生活が良くなる」という無意識の常識・自然法則は、いつの間にか「高度に発達した社会はみんなが働くことで何とか維持されている=頑張るのをやめたらもっと悪くなる」に変わっていました。働き者たちは途方に暮れ、今度は危険思想の蔓延を危惧するようになりました。「まぁ、そんなもんだよね」によって若者を中心に精神的堕落が進み、また無職が増加するという予測が発表されたのです。働き者たちは「まぁ、そんなもんだよね」対策に集中することにしました。まずは「まぁ、そんなもんだよね」を撲滅し無職の増加を防ぐ必要がある、と正当化されました。これによって働き者たちは自分たちを働き者たらしめている「システム」に触れずに済みましたが、その代償として今もまだ災厄に苦しんでいるようです。

「まぁ、そんなもんだよね」


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