就労支援

「あなたも将来利用者になる?AI・ロボットの台頭で失業が大きな社会問題になっています。無業者の職業訓練に再教育、利用者が増加の一途を辿る就労支援プログラム、その最前線を取材しました」

・・・・・・

「え~、今目の前で黙々とパソコンに向かっている大勢の人々、一見すると大企業のオフィスビルで働く会社員の方々かと思うのですが、実はみなさん就労支援プログラムの利用者さんたちなんですね。一体何をしているのか?支援者代表のAさんに話を伺います。Aさん、ここでは何が行われているのでしょうか?」

「はい、私共は民間企業としての強みを活かしまして、行政には提供できないより実践的な職業訓練の機会を提供しております。これまでの行政の支援ですと、非熟練労働者のまま徒に時を重ねるばかりで、失業の悪循環に陥りがちだったのですね」

「具体的にはどういった内容なのでしょうか?」

「基本的な社会生活スキル、つまり計画書、企画書、報告書といった諸々の書類の作成、資料の作成及びプレゼンテーション、自己管理法、ミーティングにコミュニケーションコラボレーションのノウハウといったものをですね、私共が用意したこの「社会」空間で身に付けていただくと」

「「社会」空間、ですか?」

「ええ、このフロアをご覧になればすぐわかるように、私共は「社会」を再現しているわけですね。それも、外部から一流のコンサルタント・弁護士・大学教授などなど、様々な専門家や識者の方々をお呼びして、講師・上司・人事・経営陣・カウンセラーといった役割を務めていただき、よりハイレベルで社会に即応的な「社会」を構築しております。あらゆる領域の最新の知識、一流の頭脳と経験の結晶たるこの「社会」で、各種研究機関と連携して作成したプログラムに取り組み、知識やスキルを社会的に連動させていくのです」

「はぁ~~なるほ・・・」

「おい!!離せ!助けてくれ!」

「こら!タカシ!暴れるな!」

「おっと、新しいお客様がいらしたようです。ちょっとお話よろしいでしょうか?」

「申し訳ありません!マスコミさん、国民のみなさん、申し訳ありません!私の育て方が悪かったのです!」

「いいえ!私の愛が足りなかったのです!」

「まあまあ、お父さんもお母さんも落ち着いて。私支援者代表のAと申します。いいですか、まずは息子さんの全てを受け入れてあげてください」

「働きたくない!いや、働かされたくない!オレは絵を描くのが好きなんだ!ずっと絵を描いていたいだけなんだ!」

「ええ、その気持ち、よくわかりますよ。はじめはみんなそうなのです。が、ここでの訓練を通して徐々に心を開き、働くことの喜びに目覚めていくのです」

「仕事なんてロボットに全部任せろよ!」

「いいえ、仕事は人間がやります。人間は働いて社会に参加しなければならない。仕事をしないと生きていけない」

「それは生産力に見合ったカネを配らないから・・・」

「よし、君は絵が得意なようだから、早速だがそのスキルをどうやって仕事に活かしていけばいいか、そのスキルでどう社会に貢献していくか、簡単な計画書を作成してもらおう」

「知ってるぞ!まずはそれで人格を全否定して心を折るつもりなんだろ!」

「先生の言うことをきけタカシ!カネにならない絵なんて何の価値もない!」

「そうよ!好きかどうかなんてどうでもいい!社会ではね、カネになるかならないかの方が大切なの!」

「カネにならん絵なんてただの紙切れ!それでどうやって食っていくつもりだ!?」

「あんたイカれてんじゃねーの?」

「タカシ君、誰かに自分の労働を提供し、貢献し、対価としておカネをいただき、それで食べていく。これは人間として当たり前のことなんだよ」

「オレは有害無益なクソシゴトで人生ドブに捨てたくないんだよ!」

「おいタカシ!ふざけたことを言うな!人生をドブに捨てるってのはな、お前みたいにカネにならない絵を描き続けるようなことを言うんだ!一生懸命働き、立派にカネを稼ぐことに対してそんな言葉を使うな!」

「タカシ君、一見無駄に思えるペーパーワークや作業でもね、無駄なものなんて何一つないんだ。そうしないと仕事が回らない、とても大切なものなんだよ」

「「そうしないと仕事が回らない」ルールにわざわざしてるだけだろ」

「タカシ君、社会的に意義のある活動、つまり仕事をしないで、毎日充実するかな?それで食べるご飯はおいしいかな?」

「穴掘って埋める・・・・・・いや、そんな生温いもんじゃない、鬼畜獄卒の所業!人々を蹴落として確保した保護枠の中で食うメシはうまいですか?罪の無い人々を地獄のピラミッドに突っ込んで稼いだカネで食うメシはうまいですか?」

「うんうん、わかるよタカシ君。働いていないと人生が充実しないから、働いている人たちが羨ましくてついバカにしたくなっちゃうんだよね。タカシ君、君は本当はそんな人じゃないのに、ずっと絵を描いてばかりだったから、社会のことがわからなくなってしまっているんだ。いいかい、ここで働いているのは、頑張ってたくさん勉強して、社会でたくさん経験を積んできた志ある人たちなんだ。そういう人たちがみんなで力を合わせて、一生懸命君たちを立ち直らせようとしている。働く喜びを知ってもらおうとしている。それを「穴掘って埋める」だなんて言うのは、あまりにも失礼じゃないかな?」

「・・・・・・どこが?」

「謝れタカシ!!」

「仕事は必要を満たすためにやるもんだろうが!クソシゴトでっち上げてピンハネしてんじゃねーぞ!おい、「穴掘って埋める」と聞いたらまず公共事業を思い浮かべるようなそこのお前、それなりの大学を出て人よりうまくやれてると思ってるお利口さんなそこのお前、まさにお前が「日々やっていること」が「穴掘って埋めるシゴト」なんだよ。「そういう風に決まっている」「やらないと回らない」「やることに決まった」「やっておかないとまずい」「一応やっておいた方が無難」・・・・・・こうして温存され積み上がっていくシゴトのことだよ。なのに全く自覚が持てない、それどころかそれが「必要」に根差すと本気で信じてやがる。のこのこ残業して「アー頑張って働いター」とか思ってんじゃねーぞ。不正なシステムに従って、穴掘って埋めるために雇用のイスを取り合う競争して、ぶら下げられた特権や保護を追いかけて、なにが「充実」だよボケ」

「タカシ君、さっきから君は一体何を言っているんだい?ルール?システム?でっち上げ?ピンハネ?特権や保護?いいかい、人間は仕事をしなければならないから仕事をするんだよ?仕事は人間がしなければならないからするものだよ?つまり、仕事だから仕事をしなければならずしたがって仕事をするんだ」

「先生のおっしゃる通り!さすが、社会的意義の大きな仕事でこれだけの成功を収めるわけだ!」

「ええ、筋が通っていて全てにおいて正しいです。先生は信用できそうね」

「・・・・・・はあ?」

「納得できないようだから、社会における仕事とは何か、先輩たちにきいてみようか。彼らもここに来たばかりの頃は社会を知らなくてね、けど今は社会を学んでちゃんと社会性を身に付けた。お~い、君たち、なぜ人間が仕事をしなければならないのか、タカシ君に教えてあげてくれ」

「仕事ヲシテ生キテイクノハ当タリ前ダカラ」
「仕事ガ仕事ダカラ仕事ヲスル」
「仕事ヲ仕事セネバナラナイト仕事ガ仕事シタカラ仕事ニ仕事シテ仕事ト一緒ニ仕事ヲスル」

「おいあんたら、仕事ってだけでクソみたいな関係押し付けられて悔しくないのかよ!不正の分け前に与るための訳の分かんねー作業で、上司に命令されて、怒られて・・・・・・上司なんて「上司」ってだけの見ず知らずの赤の他人だぜ!?なんでそんな奴に頭下げなきゃなんねーんだよ!」

「上司ダカラ」

「「上司」だからなんだ!」

「仕事ダカラ」

「だからなんで「仕事」でそんな関係が正当化っておい!あんたらさっきからニヤニヤするばかりで・・・」

「甘ったれたことを言うなタカシ!それが社会なんだ!」

「タカシ君、怖がらなくていいんだ。みんな君の全てを受け入れ、就労するまで全力でサポートするから」

「人を地獄に落とすことしか考えられない順応者共・・・・・・死ね犯罪者!恥を知れ寄生虫!人殺しの労働キチガイめえええええ!!」

「タカシ!お前ももう27だ!頼むから現実をみてくれ!」

「そうよ!自分だけの絵の世界から出て、現実を、社会をよくみて!」

「てめーら一度でもそのアタマ使ったことあんのか!?なあ、てめーらの言う「社会」ってのはピンハネを正当化するクソシゴトと保護枠で構成されたシステムのことか?それに寄生するクソの集まりのことか?」

「いやはや、これは重症ですよ。根拠のない全知全能感、社会から離れ続けたことで自我が肥大し、自分を神か何かと思い込んでいるようです」

「だから普通に考えて仕事ってのは・・・」

「お父さん、お母さん、タカシ君は興奮していて非常に危険な状態です。発言にまとまりがなく、おまけに妄想の論理に囚われていてまるで意味が・・・」

「うわあああああ!!」

「あっ!やめなさい!それを離しなさい!」

「もう嫌だ!死んでやる!」

「押さえろ!押さえろ!」

「タカシ・・・・・・なんてことを!」

「離せ!うっ・・・・・・うっ・・・・・・クソ・・・・・・クソ」

「ご心配なく、提携している病院が近くにありますので、すぐに救急車が到着します。しかし、参りましたねぇ。タカシ君は今27歳、このまま精神科に入院ということになりますと・・・・・・」

「先生、何か問題があるのでしょうか?」

「ええ、まあ、今の労働市場では30歳が一つの大きな境界になっておりまして、それを超えますと非常に厳しいことになる、と。ですから25歳以上の利用者が入院した際にはですね、正常な心を早急に取り戻していただくため、特別支援プログラムに24時間365日従っていただく決まりになっておりまして。そういうわけで、タカシ君には大変気の毒なことですが、100%正常と認められて退院の許可が下りるまで、大好きな絵を描くことは・・・・・・」

「先生、よろしくお願いします。どうか、どうかタカシを救ってやってください」

「うわあああああ!!!」

・・・・・・

「はぁ~~、壮絶な光景に思わず見入ってしまいましたが、こうしたことは他にも?」

「ええ、やはりどうしても精神的に不安定な方が多いですから。一度も社会に出たことがない人は彼のように奇怪な妄想を現実の社会と混同していたり、仕事が長続きしなかった人はもう虐げられるのは嫌だとか、勝ち組の肥やしになるのは嫌だとか、社会に対して過度に被害的になっていたり。しかしだからといって彼らを見捨てれば、社会への不満を募らせ、いつか必ず犯罪者やテロリストになって社会に復讐するでしょう」

「いや~、それにしてもみてください。これだけの騒ぎがあったにもかかわらず、訓練生たちは黙々と自分の仕事に取り組んでいます」

「みんな最初はタカシ君と変わらなかったのですよ。ここで「社会」経験を積み、一人前のスキルと高度な集中力・社会性を獲得したのです」

「なるほど~。やはり「社会」が人を成長させるわけですね」

「「社会」が人間を育てることはもう数々の実証研究で明らかになっております。私共はそこから一歩進んで、ではどんな「社会」がより適切なのか、どうすればその「社会」を実現できるのか、現場と研究それぞれのプロフェッショナルたちが連携し、追求しております」

「みなさんの知恵と情熱が生み出す「社会」で人間が成長していく、やはりこの喜びは大きいのでしょうねぇ~」

「まさに、重篤な無業者がこの「社会」で成長し、心を入れ替え、働くのが楽しいと言うようになってくれる、これこそがこの仕事のやりがいなのです。これからもあらゆる分野・領域のプロフェッショナルたちと協力し、一人ひとりに合ったきめ細かな支援を充実させ、社会に貢献していきたいと思います」

「就労支援の最前線、そこにあったのは懸命に社会復帰を目指す「社会」人たちの姿、そして「社会」を支えるプロ社会人たちの姿でした!以上、現場からの報告でした!」


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