怖い夜が去った頃

不意打ち、全身を劈くバケツが落ちたような音
雨が欄干にカンカン当たる規則的な音
窓がガタガタ揺れる音
ビンとビンがぶつかって弾けたような音
ドアが開閉されたような音

深夜、正確な時間は判然としない
恐怖で身体が動かない、よって確認する術なし
頭ではわかっている
雨は外で降っている、音は外で鳴っている
しかし聞こえるのは頭の周り、すぐ右で、左で、前で後ろで家の中で、音が響いている

街から聞こえるサイレンは束の間の救いだ
なぜかって、サイレンは遠くから聞こえるままに遠くから聞こえるから
おかげで少し落ち着いた、小説でも読んで朝が来るのを待とう
電気をつけると、閉まっていたはずの押し入れが少し開いていた
瞬間、いつもの部屋が急によそよそしいニセモノと化し、呼吸が乱れる

思わず「わあっ!」と小さく叫び身をかわした
すぐそばに誰かの気配を感じた
頭ではわかっている
ここには自分しかいない、だから気配の源たる呼吸は自分のものだ
しかし感じるのは頭の周り、すぐそばで、隣で、上で下で家の中で・・・・・・

我々は常に「まとまり」をつくっている
無意識に膨大なエネルギーを割き、感覚感情意味記憶を今この瞬間に結んでいる
「自分」なんて「まとまり」は所詮危うい一瞬一瞬の均衡の結果にすぎないのだが
普段は気にすることもなく、「自分」という幸せな幻想に没入している
こうやって、特にこれといった原因もなく、いとも簡単にズレてしまうのに

したがって、世界は一瞬一瞬が全て特別なのだ
したがって、ある反応が意図された娯楽なる刺激など、本来不要なのだ
一見退屈な日常世界のそこかしこに、裂け目が潜んでいる、穴があいている
仰向けになって人差し指と中指でお腹をポンポン小刻みに叩いてみれば
身体がズブズブと穴に沈んでいくのがわかる

今日は何の日だっけ?うんショッピングモールに行く日
映画館一瞬で何か観てヒトの群れ顔無くゲームセンター突っ切り
大聖堂の如き吹き抜け果てしなく長い長いエスカレーター寄る辺なく
食品売り場の迷宮通り抜け駅から大学に向かい映画館のような教室真っ暗闇授業点滅
で目を覚ますとカーテンに茶色いカマキリのような虫が動いていたので外に出そうか放置するか迷って結局外に出そうと起きて起きたら起きた

カラスの鳴き声に驚いても、遠くの音は遠くで聞こえた
新聞を運ぶバイクの音、「たったこれだけしか寝れなかった」ことを意味する不愉快な音
それでも不愉快な音は不愉快な音として聞こえた
カーテンの隙間、薄明に浮かび上がる灰色の空
今こうしている間にも、どこかで誰かが死に、どこかで誰かが生まれている
濁ったままのこんな世界でも生命は循環する、淡々と、怯える私を置き去りに


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