偉大なる進歩に、乾杯

パーティー会場にはたくさんの人が集まっている。老若男女種々様々な「労働者」たち、そして・・・・・・。盛大な拍手に迎えられ、男が一人入場。どうやら彼が本日の主役らしい。彼は舞台中央に進み出て、「代表者」と固い握手を交わす。「代表者」は満面の笑み、彼は無表情。拍手がやみ、会場が静寂に包まれ、「代表者」の挨拶が始まる。

代表者「みなさん、我々は、全人類は、苦難と野蛮の時代を生きていました。いわれなき差別と迫害を受ける少数者の存在を無視し、蔑ろにし、時には陰に陽に暴力に加担してきたのです。少しの努力と少しの寛容で、同じ仲間になることができるのに・・・・・・我々は考えることをやめてしまった。彼ら彼女らの表面しか・・・・・・いや、表面さえみようともせず、一方的に決めつけ、多くの人生、可能性を、奪ってしまったのであります」

罪悪感のせいか、会場からはすすり泣きの音が聞こえてくる。

代表者「しかし!我々は!変わることができる!歩み寄ることができる!分かり合うことができる!そしてなにより・・・・・・なにより!一緒に働くことができる!!みなさん、我々は大いなる試練を乗り越えたのであります!野蛮を克服したのであります!さあ、この記念すべき日を祝おうではありませんか!我々はもう無駄な血を流すことはない・・・・・・共に生きましょう、同じ「労働者」として・・・・・・。偉大なる進歩、先天性無業者支援法の成立に、乾杯」

会場は拍手と歓声に包まれる。みんな笑顔で手を叩き、中には感極まって泣き崩れる者もいる。しかし、当の本人すなわち「先天性無業者」の彼だけは、歓喜する人々を冷ややかな目で眺めていた。

解説を生業とする者「「先天性無業者」とは、生きるためにお仕事をさせていただく、この人間的精神を著しく欠いた「障害者」の総称であります。つまり生まれながらに労働に向いていない者たちであります。一応「生まれながら」ということになってはおりますが、実際の所はまだよくわかっておらず、就職後に「障害」が見つかるケースもあります。一度「先天性無業者」と診断されてしまえば容赦のない差別や諸々のハラスメントが付いて回り、そのせいで多くの「先天性無業者」が自殺あるいは差別に起因する病による死に至ったのであります。が、先天性無業者支援法が成立したいじょう、それはもう過去の話。我々は困難を乗り越えたのであります。彼ら専用の就労支援、職場定着をサポートする専用の支援・相談機関、彼らを雇う会社には一人毎に月100万円の補助金が支給される。これで彼らも我々「労働者」の仲間になったのであります」

「先天性無業者」の彼がシャンパンの入ったグラスをクルクル揺らしながら、フッと笑うと、会場に緊張が走る。

彼「そうかそうか、オレも、働いてお給料をいただく、そんな普通の生活が送れるようになるってわけかい・・・・・・フフフ・・・・・・ありがたいね。ところで、オレがそうさせていただくためのカネはどこからくるんだい?税金かな?」

労働組合員「わはははは、君は我々「労働者」の仲間になるんだから、これからはそんなこと気にしなくてもいいんだよ。しかし、あえて言うなら、そのカネは君の仕事から生まれる、と言えるのではないかな」

彼「「オレの仕事」からカネが生まれるなら、これまでのオレたちに対する扱いは何だったんですかね?カネが生まれるのに、わざわざ差別してたってこと?それで、どうして今更その差別をやめよう、支援しよう、なんて話になったんですかね?」

上級労働者「まあまあ、今日は記念すべき日なんだから・・・」

彼「あなた方の高給と福利厚生のカネは、どこから?非正規の給料ピンハネ?下請けイジメ?税金補助金?価格上乗せ?売り上げ?その売り上げの源は・・・・・・ああ、申し訳ない、オレはあなた方と違って無能なのでもう忘れちゃってましたよ、いけないいけない、「シゴト」でしたね、うん、「シゴトからカネが生まれる」んだった」

支援者「やめなさい!あなたは我々「労働者」の仲間になるのですから、いつまでもそういう妄想に囚われてちゃいけない、ね?我々はあなた方も働きやすい職場を作れるよう精一杯努力しますから、あなたも・・・」

彼「ええ、もちろんオレも精一杯努力させていただきますよ。なんせ、今の世の中下らない仕事は全て機械がやってくれるので、人間はそういった創造的なおシゴトに専念すべきですからな。ハハハ、シゴトのためのシゴト、無駄なおシゴト・・・」

人々は絶叫して彼の発言を遮る。

ム ダ ナ シ ゴ ト ナ ン テ ナ イ ! ! !

代表者は慌ててみんなに向かい問いかける。

代表者「労働の本質的要件とは何か!?」

労働の本質的要件とは、賃金でありますっ!!

人々はさっきまで談笑していた者たちと手を繋いで小さな輪をつくり、グルグル回転しはじめる。いくつもの雇用の銀河が誕生し、会場は大宇宙へと変貌を遂げ、その中心にはいつの間にか「賃金」が鎮座している。彼は彼を「支援」する関係者たちに取り囲まれた。ここに新たな雇用の銀河が誕生し、みんなで賃金の恩恵を受けるのである。人々はその「力」に従って回転しながら移動し、「権利!」「誇り!」「安心!」「安全!」「生きがい!」「承認!」「義務!」と口々に唱えている。すると、中心に鎮座していた「賃金」が光り輝く太陽へと変わり、賃金エネルギーが人々を優しく包み込む。人々は手を放し、再び手を繋ぎ、手を放し、また手を繋ぎ・・・・・・やがて無数の小さな輪は巨大な一つの輪へと姿を変えていく。

これぞまさに大団円!大宇宙の法則ここに顕現せり!

賃金エネルギーを吸収した人々は「賃金!」と高唱すると、スーツを纏い聖なる星戦士へと変身を遂げ、互いが互いの手を握る力を強めた。

お前を絶対逃がさない、だから私も逃がさないで。

大宇宙との合一を達成した人々は恍惚し没我しその回転速度を上げるが、目からはなぜか涙が溢れている。

解説を生業とする者「つまり、これが生きるということなのである」

しかしそんな中、彼だけが輪の外でキョトンとしており、思わず口を挟んでしまう。

「泣くぐらいなら、ベーシックインカムでいいじゃないですか」

人々の動きがピタリと止まったかと思うと、次の瞬間には絶叫が大宇宙を鳴動させていた。

イイイイイヤアアアアア!!!

人々がバラバラになり大宇宙は混乱に陥る。理性を失った群衆はブヒイイイイイ!!と雄叫びを上げながら、必死の形相で駆け出した。雇用のイス争奪戦が始まったのだ。何とか自分の生存を確保しようと、人々は身体をぶつけ合い、押し合い、殴り合い、踏みつけ合い・・・・・・イスはすぐ埋まってしまった。イスから引っぺがされた者が大宇宙の壁に衝突すると、ベリッという音と共に暗幕が裂け、あれよあれよという間に「大宇宙」が崩壊し、労働市場が姿を現す。化けの皮!が、時すでに遅し。イスを確保できなかった者たちはアパ・・・・・・アパ・・・・・・アパパパパパと泡を吹いて痙攣しそのまま息を引き取り、精根尽き果てた者たちはブヒィと一声弱弱しく泣くとイスの上でピクリとも動かなくなり(すぐにどかされイスには喜んで別の者が座った)、「未来」を悟った者たちは次々と首を吊っていった。しかしここで彼が混乱に乗じて太陽たる「賃金」に近づき、あろうことかそれを爆発させてしまう。

代表者「こ、こ、この世の終わりだー!!」

ア~~~~~レ~~~~~!

・・・・・・太陽の爆発から大量のカネが発生し、人々に遍く降り注いだ。ポカンとする人々が会場の外に目を向けてみると、この混乱などまるで無かったかのように、機械が淡々とモノを生産している。

代表者「こ、こうなることは最初からわかりきっていた!みなさん、我々は大いなる試練を乗り越えたのであります!野蛮を克服したのであります!さあ、この記念すべき日を祝おうではありませんか!我々はもう無駄な血を流すことはない・・・・・・共に生きましょう、同じ人間として・・・・・・。偉大なる進歩、ベーシックインカムの成立に、乾杯」

会場は拍手と歓声に包まれる。みんな笑顔で手を叩き、中には感極まって泣き崩れる者もいる。しかし、彼だけは、歓喜する人々を冷ややかな目で眺めていた。


人生ループ

苦しい もうやりたくない
けど やらねばならない
一体何のために?
思わず意味を求める
ハハハ、また意味で誤魔化そうとしてらぁ と自嘲する
苦しい
ああ、結局問わずにはいられない
無事 意味をみつける
ハハハ、また 意味で痛みが消えた
これでしばらくは生き延びられそうだ

悲しい もうできない
けど やらねばならない
一体誰のために?
思わず誰かを求める
ハハハ、また愛で誤魔化そうとしてらぁ と自嘲する
悲しい
ああ、結局問わずにはいられない
無事 愛をみつける
ハハハ、また 愛で痛みが消えた
これでしばらくは生き延びられそうだ お互いにね

虚しい 器の中が空っぽだ
どうすれば満たされるの?
思わず中身を求める
ハハハ、そもそも人間を器に見立てるやり方が間違いなのさ

じゃあ何に見立てればいいの?
何にも?人間は人間 何かの器なんかじゃないのさ
意味が入る器じゃない 愛が入る器じゃない
それじゃあみんなどこに行くのさ?
意味も 愛も 生じた傍から掌をすり抜けて それでおしまい
どこかにとどまることはない

歯医者さんのにおいがする
ジッと 待ってる あの感じ
別に 嫌いじゃないよ あの感じ
全然痛くなかったからね
うん きっと
別に 嫌いじゃないんだから 全然痛くなかったんだよ

あなたは知っている
誰もあなたに「それ」を求めてはいないことを
あなたは知っている
誰もがあなたに「それ」を求めているからあなたは明日も「それ」をやることを
あなたは知っている
誰もあなたに「それ」を求めてはいない
と知りながら
誰もがあなたに「それ」を求めているからあなたは明日も「それ」をやることを

痛む時には
誰もがあなたに「それ」を求めているからあなたは明日も「それ」をやる
痛みが消えた時には
誰もあなたに「それ」を求めてはいない
と知りながら
誰もがあなたに「それ」を求めているからあなたはいつも「それ」をやっていた
そんなあなたを省みて あなたは自嘲する
ハハハ、一生懸命だ!

あなたは知っている
意味も 愛も 掌をすり抜けるばかりで あなたを癒してはくれないことを
あなたは知っている
それでも 一体何のために? 一体誰のために?
と問わずにはいられないことを
あなたは知っている
最初から全て間違ってしまったことを
あなたは知っている
「最初から全て間違ってしまった」が成立すること自体が間違いであることを

つまり・・・・・・?(笑)

あなたは知っている
それでも 信じていることを
もう戻れないから 信じる以外にないことを

「一つ進む」のマスの先には 「一つ戻る」のマスがある
一つ進む、一つ戻る、一つ進む、一つ戻る・・・・・・
ゲームの中なら一秒、二秒、三秒、四秒・・・・・・もう、やーめた!
実人生の中では一年、二年、三年、四年・・・・・・もう、やーめ、られる?


「コミュニケーション能力」とは何か

企業が就活生に「コミュニケーション能力」を求めるようになって久しい。「コミュ障」や「アスペ」といった差別用語?も広まり、「コミュニケーション」を重視する姿勢はすっかり社会に浸透した。こうした傾向に対し、識者たちは「コミュニケーション偏重主義」「空気を読むだけ」と批判し、グローバル化やら高度化する仕事やらについていけなくなると警鐘を鳴らしている。

しかし逆に言えば、ついていく必要を感じてないから「コミュニケーション」を重視しているということである。もし仮に我々が重大で切迫した問題に直面していたら、「コミュニケーション」なんて重視するだろうか?つまりそういうことである。実際にヤバかったら「コミュニケーション」のことを気にする暇など無い。問題解決に向け必死になって協力しようとするはずである。

要するに、暇になったのである。やることがほとんどない、しかし諸々の事情(「しょうがないだろ!オレたちは働いてカネを稼がなきゃいけないんだよ!」)でそれを素直に認めるわけにはいかず、意識的・無意識的に忙しくしようとして発見したのが「コミュニケーション」という広大なフロンティアであり、それが今日のコミュニケーション・ブーム?につながっている。(社会的には)頑張る必要がないのに限られた雇用のイスを巡って(個人的には)頑張らなければならない=競争しなければならないから、「コミュニケーション」で競争しているのである。

さて、学校なりサークルなり職場なりで何かしらの企画をやった時のことを思い出してほしい。新しい試みなど何もすることなく、そもそもわざわざ新しい試みをする必要などなく、「何となく決まっていたこと」を進めていくだけである。したがって大変な思いや苦労をしなくても構わないのだが、「それではいけない」ので、話し合い、対立し、「必要なこと」を増やし、友人や先輩に相談して友情や信頼を深め、残ったり徹夜したりし、右往左往しつつも「何となく決まっていたこと」の「枠」からは外れないようにし、大成功でもって成長や充実を得る。「何となく決まっていたこと」を進めるだけでは競争にも成長にもならないからといって色々と「らしさ」を加えることで、複雑さだけが無駄に増す。

複雑さが無駄に増すことによって脱落者が出る。対立に執着する者、「枠」から外れる者、従わない者、合理化しようとする者・・・・・・こうした人たちは集団から排除され、「コミュ障」「アスペ」と認定される。つまり、この「何となく決まっていたこと」を複雑に実現していくことに貢献する能力が「コミュニケーション能力」なのである。

この能力は当然個別の「コミュニケーション」でも重要になってくる。たとえば「志望動機は?」「本音は?」「本当は?」というやりとり。「動機」も「本音」も「本当」も言語化は極めて困難で、こうしたことを言葉にして表現する、言われた方がきちんと解釈する、これは非常に手間のかかる共同作業(コミュニケーション!)であり、どちらの側にも相当な知力と根気が求められる。考えるまでもなく、この作業を遂行している人間はほとんどいない。

それでは常日頃人々が行っている「コミュニケーション」は何なのかというと、これも「何となく決まっていたこと」の実現なのである。たとえば「○○ちゃんには興味ないよ」は「本音」と認められず、「実は○○ちゃんのこと好きなんだ」は「本音」と認められる。「本音」は相対的なもので日々流動するが、要は相手・みんな・社会が本音と認めているものが「本音」。本音だから言いづらいのではなく、言いづらいからそれが「本音」。「言いづらいこと」は社会的にかなり共有されているので(「何となく決まっている」ので)、個別の「コミュニケーション」ではそれを相手や集団や状況に合わせて調整し、いかに「本音」と認めさせるかの勝負になる。

「志望動機」も同じように「何となく決まっていたこと」である。これは当たり前で、相手を納得させるには「何となく決まっていたこと」に頼る方がいいし、面接する方も「何となく決まっていたこと」でないと納得できないだろう。しかしあまりにも典型的な「何となく決まっていたこと」だと印象が悪くなるので、「何となく決まっていたこと」の「枠」内でいかに好印象を与えるかの勝負になる。「枠」の範囲でうまくやるセンスは無駄に複雑な日々の労働をこなしていくには必要なので、「志望動機は?」という質問は理に適っている。

「動機」も「本音」も「本当」も、誠実に語ろうとすれば「わからない」「みんなやっているから」としか表現しようがなかったりするが、それでは競争にならないし、その責任を個々人に引き受けさせることができないので、「何となく決まっていたこと」を「お前の動機/本音/本当」ということにするのである。わからない?ならもっと内面を掘り下げろよ!みんなやっている?ちゃんと自分の言葉で話せよ!ほら!ほら!・・・・・・こうやって「何となく決まっていたこと」を当人の口から「当人の言葉」で語らせ、「お前の言葉」なんだからそれが「現実」そのものなんだよ!ということにする。「動機」「本音」「本当」と認めてもらうには誠実さを捨てねばならず、そうして絞り出される不誠実な言葉が「意欲/愛/信頼の証」とされる。「所詮は言葉遊びなんだから現実と一致するわけないじゃん」なんて態度は許されない。不誠実な言葉を誠実に語る狂気の競争、この途方もない滑稽さについていけない者は脱落し、例の如く「コミュ障」「アスペ」ということになる。

つまり現代社会における「コミュニケーション」とは(メディアや人間関係を通じて内面化した)「何となく決まっていたこと」を現出させる共同作業であり、「コミュニケーション能力」とはそれに貢献する能力である。単純なことを複雑に、簡単なことを難しく、不誠実な言葉を誠実に、この不条理に没入する能力。技術の進歩や機械化のおかげで社会的にはやることがなくなったのにそれを素直に認められないせいで「必要」になってしまった能力。オレは本心を話してるぞ、バカにしやがって!と怒る人もいるかもしれないが、まさにそれこそが「競争社会」に適応的なあり方なので、夢から覚めたくないならその気持ちを大事にしてください。


どうして「働きたい」の?

「働きたくない」

「またそういうこと言ってる。連中に聞かれたら怠け者がいるって問題になるぜ」

「気に入らないな」

「うん」

「じゃあ、あんたらはどうして「働きたい」の?」

「将来?キャリア?突き詰めれば「カネ」?」

「社会貢献だの成長だの、それらしい理由はいくらでも並べられるさ。なんせ、みんなが労働の正しさを保証してくれてるんだからね。けど、善いと保証してもらったからといって、それが実際に善いことだとは限らない」

「労働とは何か?それは他人や社会の必要を満たすこと、よりうまく確実に満たせるようにしていくことだろう。より少ない人数でよりよいモノ・サービスをより多く生産・提供できるようにすること。こうした進歩・豊かさを目指しているはずだが」

「働いてカネを稼がないと生きていけないシステムの下でね」

「ベクトルが真逆」

「結果、それが実際に必要かどうか、役に立つかどうか、人間を豊かにするかどうかより、そうであると信じ込ませることの方が重要になっている。シゴトを創り、雇用のイスを確保する、そのためのコミュニケーション能力が重要になっている」

「人間を賃金奴隷に変える仕組み、その下で創出される無駄なシゴト、一見必要で役立っているようで実は奴隷の生活や再生産に必要で役立っているだけのモノやサービス」

「まあ、「働きたい」理由がカネだと言うなら正直だよ。反社会的活動によってカネを稼ぐ、シゴトにはそれ以上の意味なんて無いんだからね」

「カネ以外だと「ニート・無職になりたくない」が一番だろう」

「バカにして見下し、「寄生虫」だの「無能」だの「生きる価値が無い」だの好き放題烙印を押してきたんだからね」

「そりゃ「働かなくなったら自尊心が~社会的評価が~」と怖れるようにもなる」

「社会人様は労働を何だと思ってるのだろうね。自己中心的な意味は次々と付与するわ、マウンティングの道具にするわ、他人や社会の必要なんて眼中に無いわ」

「研究者や芸術家やイノベーターは他人の必要なんて考えないもんね!なんてね」

「今話しているのは「研究者」でも「芸術家」でも「イノベーター」でもなく他ならぬ「あなた」の日々の行いについてなんだがな」

「死と将来への不安、世間様に見捨てられる恐怖、これでもうどこからともなく「働きたい」気持ちが湧いてくる」

「だから仕方ない、と?」

「ああ、連中はきっと逃げるね。今もロボットに仕事を「奪われた」人たちのケアが必要なんて言ってやがる」

「あんたらとあんたらが奉仕するシステムに人生も尊厳も「奪われた」人たちのケアが必要と一度でも考えたことがあるかい」

「偉そうにニート・無職に「ワガママ言うな!」とか言うくせに、自分たちのワガママは全部許されると・・・・・・いや、そもそもそれを「ワガママ」と認識さえしていない」

「連中の「ワガママ」でどれだけの人が苦しみ、死んでいるのか」

「ブラック企業・経営者批判に自立・就労支援という名の同化政策・・・・・・まだ続けようとしてらぁ」

「諸々の事情があったんだってさ。カネを稼がないと生きていけない、それが現実なんだから仕方ないじゃないか!」

「けど今はどう?他人を蹴落とし、限られたイスを確保し、余っているモノやサービスのために互いが互いに不毛な命の削り合いを強いる。そんな「現実」にすっかり取り込まれ、ニートや無職が惨めに死んでいくのは仕方ないと思っているんだろ?」

「それは当たり前じゃないか!あいつらは努力しなかったから!能力がないんだから!それが資本主義ってもんだ!・・・・・・ふふふ、すっかり板についてしまったようで」

「ニート・無職や低賃金労働者の方まで連中の狂気で精神をやられちまってる」

「だから感謝の言葉が効果を発揮する」

「苦しくても我慢して働いてくれてる人がいるから、社会が回っているのです!あなたの労働が誰かを支え、誰かの労働があなたを支える。つまり互いが互いに「生かされている」のであります!頑張ってくれてる人に感謝!・・・・・・苦しいからこそ、上級奴隷様が垂れ流す陳腐な綺麗事を綺麗なまま受け取ってしまう」

「しかし騙す意図などなく、本心から感謝している」

「「騙す意図などなく、本心から感謝している」ことが問題なのだが」

「感謝する連中はその人たちに何をしている?」

「それが真実だ」

「人間は生まれながらに価値がある、そう言う連中が他人に何を強いている?」

「それが真実だ」

「連中にとっては、所詮、「その程度の存在」ってことだよ」

「「生かされている」という意識、それは心理的負債。生産に貢献しているものの大部分は自然や過去の積み重ねであるにもかかわらず、現役労働者に対する幻想の負債を背負わせ、それを労働=苦労によって償わせる。綺麗事を並べて「現実」に取り込み、負債を背負う存在であると同時に他人から取り立てる存在たらしめる」

「何の疑いもなくそれができてしまうことこそ最大の罪」

「これだけやっても、連中はきっと逃げるね。今も、価値観の転換が必要だとか、そのための議論が必要だとか」

「そんなもん必要ない。要は、罪を認めるかどうかなんだから。社会を支えていたのではなく、社会をクソな現状に縛り付けていただけだった。善意でやったなんて関係ない、それは反社会的活動でしかなかった、苦しみを増やしただけだった。認められたら、一瞬で全てが変わるのに」

「連中はきっと逃げるね」

「誰かを傷つけても」

「連中はきっと逃げるね」

「社会を破壊しても」

「連中はきっと逃げるね」

「誰かを殺しても」

「連中はきっと逃げるね」

「「連中」とは何か?」

「「連中」とは「あなた」だよ」

「ということは」

「あなたはきっと逃げるね」

「「システム」とは何か?」

「「システム」とは「あなた」だよ」

「だから」
「だから」

「あなたは「働きたい」のさ」


獄卒殿の面接

「次、平社員63106!入りなさい」

「はい!失礼します!」

「座りなさい」

「はい!ありがとうございます!」

「ふむふむ。

私は人間関係がうまくいかず、現実から逃げて家に引きこもってきました。うまくいかないのを相手のせいにし、一方的に恨み、毎日無為に過ごしてきたのです。その当然の結果として、私は何の成長もできず、社会に迷惑をかけるだけの存在となり果てました。しかし、ここ「天国」に入って全てが変わったのです。日々の厳しい労働、なにより獄卒の方々による愛に溢れたご指導のおかげで、私は人間としてあるべき姿を学び、社会の中に自分を位置づけることができるようになりました。人間として大きく成長した今だからこそ、外の世界で見分を広げ、さらなる飛躍を志向すべきと考え、仮釈放を申請させていただきました。

なるほどね、平社員63106、君の文章で間違いないかね?」

「はい!獄卒殿!それは私の書いた文章であります!」

「ハイ、そうですか」

「・・・・・・えっと、あの、何かないのですか?」

「平社員63106、ここは「仮釈放審査会」だ。君が、仮釈放の権利に値する人間か、判断するための機会、だ。わかるかい?」

「はあ、まあ、はい」

「君がポエムを披露する文学サークルの集まりではない、と言っているのだが?」

「えっと、あの、どういうことでしょうか?」

「君はここにきて何年だね?」

「3年であります。しかし、「天国」における1年は外の世界の10年に相当すると・・・」

「ほう、君はそんな「最高の成長の場」を出たいと言うのかね?」

「い、いえ、私はさらなる成長を求めて・・・」

「確かに君の成長はこちらでも評価しているよ。なんせ、最初はどうしようもなかったからね。獄卒の言うことは聞かないし、ここを「地獄」呼ばわりしたこともある。そんな状態からよくここまできたと思うよ」

「ありがとうございます!それも獄卒の方々の・・・」

「申請を取り下げるつもりはないのかね?」

「え、あ、はい、ありませんが・・・」

「残念だ、本当に残念だよ。実はね、君の仲間たちから、君には協調性が欠けているという報告がね、具体的事例と共に上がってきているんだ」

「え・・・・・・う、嘘だ!だ、誰がそんなことを!?私は精一杯協力していますし、仲間も私の働きぶりは認めているはずですよ!」

「仲間の客観的な評価より、君自身の主観的な自己評価を重んじる、と?」

「いや、ですから、私は精一杯協力・・・」

「そうか、ということはつまり、仲間の誰かが君を陥れようと嘘の報告をした、君はそう言いたいわけだね?」

「言いたいもなにも・・・」

「仲間のせいにするわけだ。君のことを思い、痛む心を押さえつけてまで君の欠点を報告してくれた仲間のせいに」

「獄卒殿!獄卒殿!ちょっと、ちょっと待って・・・・・・いや、いや、取り乱して申し訳ございません、仲間は悪くありません。悪いのは私であります、協調性に欠ける私であります!」

「素直に自分の非を認め、自己責任に帰したことは評価しよう。しかし、だ。そうなると君が書いた「人間として大きく成長した」、これは一体どういう意味になるのだろうか?仮釈放を申請するぐらいだから、もちろん「大きく成長した」の中には協調性を完璧に身に付けたことも含まれるはずだが?だろう?そうじゃないとまた「社会に迷惑をかけるだけ」で、外に出ても「さらなる飛躍」など到底期待できないのだから」

「た、確かに私にはまだまだ至らぬ点が多々ありますが・・・」

「それが本当なら、君は仮釈放の権利に値しない。違うかね?」

「違いませんがしかし・・・」

「平社員63106!!君は本当にそう思って発言しているのか!?え?「悪いと素直に認めておけば簡単に評価を高めることができるぜ」、違うか!?おい、甘ったれるのもいい加減にしろ。まったく、君の根本は何も変わっていないようだな。いいか、君の言うことが本当なら、このような面接などそもそも行われないんだ、そうだろう?「権利を持つに値しない」人間がその自覚も持っているのだから、権利を求めて申請などするはずがない。しかし、君はこうしてここにいる。これを踏まえたうえで答えろ。「協調性に欠ける私」「至らぬ点が多々ある」、これは一体なんだ?口では自分の非を認めながら今もこうして粘っている、これは一体どういうことだ?」

「獄卒殿!私はなんとか人さまのお役に立てるようになりたくて・・・」

「平社員63106、これは大問題だぞ!!君は仮釈放の権利欲しさに我々の評価を高めようと、実際には思ってもいないことを堂々と口にしたんだ!つまり、君は獄卒に嘘を吐いた・・・・・・わかっているのか、おい?」

「そ、そんな・・・」

「まだ何か言いたいことはあるか?」

「えっと、あの・・・」

「あるのか!?はぁ~、とんでもない奴だ、信じられないね。君は嘘がばれたにも関わらず、こうして弁解しようとしている。私を別の嘘で丸め込めると思っているんだよ。「こいつはバカだから簡単に騙せるぜ」?そうやって他人を心底見下しているからこそ、平気でこんなマネができると思うのだが?」

「獄卒殿を見下すだなんて、そんなこと決してございません!ありえません!」

「じゃあばれると分かって嘘を吐いたのか?」

「え、えっと・・・」

「私を見下していたのかね?」

「ありえません!そもそも獄卒殿に嘘を吐くつもりなど・・・」

「意図がなかった?なら余計悪いな。平社員63106、君はかなり重症らしい。無意識のうちに息をする如く、本心とは違うことを言ってしまうとはね。はぁ~、悲しいことだよ。最初に比べれば君は大いに成長した、その評価さえ根底から覆さねばならない、ひどい裏切りだ。この3年は一体何だったのだろう?」

「うっ・・・・・・うっ・・・・・・獄卒殿!申し訳ございませんでした!私にはまだまだ「天国」での労働が足りません!」

「呆れたね。嘘!嘘!嘘!嘘!君は嘘ばかりじゃないか!重ねに重ねた嘘がばれたにも関わらず、懲りずにまた泣き真似をして、「労働」が足りない?」

「・・・・・・重労働が・・・・・・足りません」

「こっちとしてもね、君を信用したいのは山々なんだよ。成長した君がさらなる飛躍をとげるためにも、仮釈放の権利を勝ち取ってもらいたい、心からそう思っているんだ。しかし、だね、こう何度も嘘を吐かれると、ねぇ?」

「私には重労働が足りません!厳しい重労働と切迫した生活をお与えください!」

「ふむ、君が生まれ変わるために精神を根本から鍛えなおさねばならないことを考えると、少なくとも5年は必要だと思うのだが?」

「いいえ!私のような人間が社会に役立つ存在に生まれ変わるためにも無期限でおねがいします!」

「平社員63106、その気持ちを忘れるな」

「はい!」

「ところで、君はなぜ平社員63106なんだい?なぜここに連れてこられた?なぜこうしてペコペコしている?なぜあっさり納得した?不当だとは思わないのかね?」

「・・・・・・え?」

「私はなぜ獄卒であり、何を以て獄卒であるのか?「仮釈放の権利」なるものを巡って行われたこの面接は何なのか?そもそも「仮釈放の権利」とは何なのか?」

「獄卒殿、おっしゃっていることの意味が・・・・・・それらは「ここの決まり」としか・・・」

「君、いや、君たちに「生まれ変わって」もらいたい、心からそう思っているということさ」

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遊民

Author:遊民
読みたい本が山積みなのでニートしてます。

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